「あなたはまぎれもなく“食糞者”である」最新科学で解き明かす、驚くべき『うんこの世界』を読む
病原菌の存在しない未来を期待する人からすれば不満だろうけれども、本書ではこうしたスッキリしない話の詳細こそが、トイレでじっくり読み耽りたくなるほどに面白い。たとえば、細胞が抗生物質の耐性を獲得するメカニズム。そこでは環状DNA分子「プラスミド」がUSBドライブのように働き、コンピュータ間……ではなく細胞間で耐性遺伝子が広まっていく。抗生物質の効かなくなることに恐ろしさを抱くよりも先に、そのよくできた細胞のシステム設計に感心してしまう。
腸活ブームによって注目を浴びる、有益な細菌を含む調合物「プロバイオティクス」だが、高価なヨーグルトなどのプロバイオティクス食品について、効果を裏づける証拠はほとんどないらしい。第10章「それ、本当に食べますか?」でのそんな残念な話は、発想の転換によって新たな展開を見せる。
プロバイオティクスを腸までの道のりの遠い口から摂取するよりも、多くの細菌を含むうんこを肛門から体内に押し込んだ方が近道だし、効果もあるのではないか?という身も蓋もない論理から導き出される摂取方法。それが実際に存在しているのである。ドナーから採取して処理したうんこを被移植者の腸に挿入する「糞便微生物叢移植」は、メタボリックシンドロームやアレルギーなど、さまざまな疾患の治療オプションの候補になり得るものとして研究が進められているという。
未来のうんこの世界がどうなっているのか、今から興味が尽きない。