集めたウンコは3000個 クマのリアルを語る『ある日、森の中でクマさんのウンコに出会ったら』

クマのウンコの研究本

 『ある日、森の中でクマさんのウンコに出会ったら〜ツキノワグマ研究者ウンコ採集フン闘記』(以下『ある日、森の中でクマさんのウンコに出会ったら』)が7月10日に辰巳出版(株)より発売される。

 1999年夏、東京農工大の学生だった小池伸介は、野生のツキノワグマが何を食べているかを調べて卒論を書こうと、山梨県・御坂山地でウンコを探し回っていた。苦心の末に最初の1個を見つけてから25年間、東京都の奥多摩や栃木県の足尾・日光周辺からアメリカ、ロシアなどにもフィールドを広げ、クマのウンコを拾い続けてきた。

 これまでに拾った数は、論文になったクマのウンコだけで2580個。論文にならなかったものや他の動物のものを合わせるとゆうに3000個を超えるという。その中身を分析する「糞分析」の地道な積み重ねと、クマのウンコをめぐる様々な調査・実験によって、小池はクマの生態だけでなく、植物とクマの関係、森林全体においてクマが果たしている役割を明らかにした。

 小池の新刊『ある日、森の中でクマさんのウンコに出会ったら』ではそうした発見にいたるプロセスや試行錯誤とともに、不真面目な学生だった小池が卒論を書いて大学院に進み、就職・社会人生活を経て再び研究の道に戻り、今に至るまでの経緯や葛藤を、ユーモアたっぷりに振り返る。

 小池の研究は野生のクマの生息地でのフィールドワークがメイン。獣道を分け入って山奥に入り、断崖絶壁をよじ登ってクマを追跡し、捕獲トラップを仕掛けて吹き矢でクマを眠らせて発信機付きの首輪を取り付け、高所恐怖症に耐えて小型飛行機に乗り、時に捕獲しようとしたクマに返り討ちに遭う……。

 思いもしない出来事が次々に起こり、ハプニングや失敗を乗り越えて新発見にたどりつくというスリリングな展開は一気読み必至。前野ウルド浩太郎『バッタを倒しにアフリカへ』(光文社)、川上和人『鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。』(新潮社)、田島木綿子『海獣学者、クジラを解剖する。』(山と溪谷社)といった動物学者の研究記に続く一冊と言えるだろう。

 近年クマの目撃件数はどんどん増えていて、人口の多い郊外で目撃されることも珍しくない。毎日のようにクマの出没がニュースになっていて、時にはいたましい人身事故が報じられることも。ネット上では大規模な駆除を行って、クマを絶滅させるべきという過激な主張も出るほど。

 しかし、クマは猛獣として怖れられる一方、生態については驚くほど知られていない。この本では、最新の研究成果だけでなく、ツキノワグマの食べ物のほとんどが植物で、大多数の個体が慎重かつ臆病で人間を避けて山奥に住んでいるなどの基本的な生態から、人間との遭遇や出没が増える理由までをとてもわかりやすく解説し、クマとの共存のあり方や人間社会がやるべきことなどを示す。

 また、神奈川県の動物園や秋田県のクマ牧場での調査や、栃木県・足尾日光山地でのGPSなどを使った移動距離の測定、糞分析によるウンコ1つあたりに含まれる種子の数のカウントなどといった地道な研究によって、小池はクマとそのウンコが森林においてどんな役割を果たしているのかを解明していく。その研究を追うことで様々な生物種が関係し合う自然界の複雑さや生物多様性の大切さがおのずと明らかになるだろう。

■書籍情報
書名:『ある日、森の中でクマさんのウンコに出会ったら〜ツキノワグマ研究者ウンコ採集フン闘記』
著者:小池伸介
イラスト:帆
デザイン:佐藤亜沙美
発行:辰巳出版
発売日:2023年7月10日
定価:1,650円(本体1,500円+税)
体裁:四六判288ページ

Amazonで購入する:https://amzn.asia/d/fz8fEI0
楽天ブックスで購入する:https://books.rakuten.co.jp/rb/17513318/

2023年7月8日(土)よりミュージアムパーク 茨城県自然博物館 企画展「うんち無しでは生きられない! -あなたの知らない自然のしくみ-」会場で先行販売を予定。
博物館公式HP:https://www.nat.museum.ibk.ed.jp/

■著者プロフィール
小池伸介 Koike Shinsuke
ツキノワグマ研究者。東京農工大学大学院グローバルイノベーション研究院教授。博士(農学)。専門は生態学。主な研究対象は、森林生態系における植物―動物間の生物間相互作用、ツキノワグマの生物学など。現在は、東京都奥多摩、栃木県、群馬県の足尾・日光山地においてツキノワグマの生態や森林での生き物同士の関係を研究している。1979年、名古屋市生まれ。著書に『クマが樹に登ると』(東海大学出版部)、『わたしのクマ研究』(さ・え・ら書房)、『ツキノワグマのすべて』(共著・文一総合出版)など。

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