『BADDUCKS』『大好きな妻だった』などで注目! 鬼才・武田登竜門が語る、フランス発ファンタジー大作『DOGA』の挑戦
全てを失った男と囚われの女によるSF仕立ての逃亡劇『BADDUCKS(バッドダックス)』 (2019年~2020年)や、150万PV超の感動作『大好きな妻だった』(2021年)など、次々と話題作を発表し続けている漫画家の武田登竜門氏。そんな注目の鬼才がいま手がけている長編コミックが、ひょんなことから機械の身体にされてしまった若き貴族と、孤独な怪力少女の旅を描いたファンタジー大作『DOGA(ドガ)』だ(現在「webアクション」にて連載中/単行本は3巻まで発売中)。
ちなみにこの『DOGA』、“フランスの出版社が版権を持つ日本の漫画”という、現時点での日本の出版界では少々特殊なバックグラウンドを持った作品でもある。
そこで本インタビューでは、作者の武田登竜門氏に、同作の成り立ちや、“男女の旅の物語”を好む理由、キャラクターの中にある「善」と「悪」の概念、そして、そもそもなぜ「漫画」という表現を選んだのかなどについて、ざっくばらんに語っていただいた。(島田一志)
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フランス発の日本のコミック
――いきなりですが、さまざまな表現の中で、武田先生があえて「漫画」を選んだ理由を教えてください。
武田 10代の頃から趣味で落書きみたいな絵はよく描いていたのですが、本格的に漫画を描き始めたのは、実はここ数年の話なんです。具体的に言えば、2018年、最初は二次創作で半年ほど漫画を描いてみて、漫画を描くのが面白いと感じて、オリジナルの表現に興味を持ち『BADDUCKS』を描きはじめました。 インディーズの形でウェブや同人誌即売会で作品を発表していく中で、商業誌の編集者の方たちから声をかけていただけるようになっていたのですが、いきなり『BADDUCKS』で長編を描いてしまったので、まずは短編作品にその後は挑戦しつつ、商業での作品の準備をしていました。漫画は、絵の表現であると同時に物語の表現でもあるというところが気に入っています。私の場合は、最初にキャラクターのデザインを決めることが多いのですが、その際、ほぼ同時に物語も浮かんできますので。
――今回のインタビューでは、主に現在進行中の長編『DOGA』についてうかがいたいと思っています。『DOGA』は、ある出来事がきっかけで機械の身体にされてしまった「北の大陸」の若き領主・ヨーテと、貧民街で孤児として育った怪力の少女・ドガが、“自由”を求めて遠くにある海を目指す旅の物語ですね。もちろんこの男女のコンビを、『BADDUCKS』に出てくる主役の2人(モーガンとリサ)と重ね合わせて読むことも可能かもしれませんが、こうした『DOGA』のキャラクターやストーリーというものは、以前からあたためていたものですか?
武田 いえ、基本的には、フランスの出版社(Ki-oon)の編集さんから声をかけていただいた後で、ゼロから考えたものです。ただ、前作の『BADDUCKS』を描き終えたあたりで、「次に長編を描くならどういう話になるかな」とふと考えたことはありました。キャラクターも物語も割と自然に出てきたように思います。前作もそうでしたが、私の場合、単独の主人公よりも、男女のコンビをセットで思いつくことが多いですね。
――今おっしゃったように、『DOGA』はフランスの出版社が制作に関わっている(=版権を持っている)、現時点の日本の漫画界においては少々珍しいタイプの作品です。このことについては、Ki-oon社の担当編集者であるキムさんにご説明いただいた方がいいかもしれません。
キム 弊社の本社はパリにあるのですが、現在、私が東京オフィスで主に手がけている仕事は、日本で新しい才能を発掘し、共にオリジナルの漫画作品を作り上げていくことです。そしてその作品をまずはフランスで単行本として刊行し、後に日本やその他の世界各国の出版社へライセンス営業をかけています。『DOGA』については、双葉社さんと契約させていただくことになり、諸般の事情で日本版の刊行の方が先行したのですが(注・フランス版も現在刊行中)、基本的にはいま言ったような形での、フランスから日本へ、あるいは世界へ、という新しいスタイルの漫画作りを目指しています。
――武田先生との出会いはどういうものでしたか?
キム 数年前、『BADDUCKS』をウェブで読んで、まずはこの膨大な量をたった1人で描き切ったという事実に驚き、次に、独自の世界観に圧倒されました。武田さんの作品の多くはファンタジーですが、リアリティがありますよね。これは日本だけでなく世界に通用する才能だなと確信しました。別の言い方をさせていただければ、国や文化などの垣根を越えて、普遍的な“面白い物語”を描ける作家だと思いましたから、弊社の社長とも相談し、すぐにご本人と連絡を取るべく動き始めました。
武田 たしか、最初にキムさんに声をかけていただいたのは、コミティア(同人誌即売会)の会場でしたよね。
キム そうです。メールで依頼するよりも、直接お願いした方がこちらの想いが伝わるかと思いまして。ただ、今も申しましたとおり『BADDUCKS』を読んで以来のファンだったもので……あの時は、勇気を出して声をかけたんですよ(笑)。
武田 あまりそうは見えませんでしたが(笑)。ちなみに、今の日本の商業誌では、作家にとって物語の終わりまで描かせてもらう点で難しさがあると思うのですが、キムさんは丁寧に私の漫画を読み込んでくださっているのがわかりましたので、全てお任せすることにしたんです。この方なら最後まで私の描きたいように描かせてもらえるかなと。あと、お話ししている中で、キムさんの「紙の本」へのこだわりもわかってきて、そういうところにも共感しました。
キム 現状、私だけでなく、フランスではまだまだ紙で漫画を読む層の方が多いですね。ただ、時代の流れも無視はできませんから、弊社でも少し前から無料で読めるデジタル媒体「MANGA NOVA」をスタートしたところです(注・フランス語限定)。『DOGA』もそこで連載しています。