『攻殻機動隊』原作漫画と映像作品はどう違う? 時代を先取りしていた草薙素子の意外な設定
2024年の8月20日、人気声優の田中敦子氏が亡くなった。享年、61歳。人生80年が当たり前の現代において早すぎる死だった。
田中氏は人気声優だったため代表作は数多いが、筆者にとって最もイメージが強いのは『攻殻機動隊』シリーズの草薙素子である。何度も映像化されている『攻殻機動隊』だが、『攻殻機動隊 ARISE』以外の映像作品はすべて田中氏が声を当てており、最初の映像化となった『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』(1995)から現時点で最新映像作品の『攻殻機動隊 SAC_2045』(2022)まで実に27年も同キャラクターを演じたことになる。『攻殻機動隊』は2026年最新テレビアニメが放送されることが決まっており、鬼籍に入ることが無ければそのまま草薙素子を演じ続けていたかもしれない。
さて、『攻殻機動隊』最初の映像化は前述のとおり1995年だが、原作はもっと古く士郎正宗氏が原初の「攻殻機動隊」となる『攻殻機動隊 THE GHOST IN THE SHELL』を発表したのは1989年のことである。その後、続編となる『攻殻機動隊1.5 HUMAN-ERROR PROCESSER』が1991年から1996年にかけて発表され、『攻殻機動隊2 MANMACHINE INTERFACE』が2001年に発表された。『攻殻機動隊』は映像化作品のコミカライズや、スピンオフなどが他にも出回っているが、生みの親である士郎正宗氏による純正の『攻殻機動隊』はこの3作、単行本全3冊のみである。
その後の映像化作品に筆者の知る限り、原作に「忠実な」形で映像化された作品は一本もなく、オリジナルの『攻殻機動隊』は「原作」と言うより「原案」と言った方がしっくりくる。では、そのオリジナルの『攻殻機動隊』はどのぐらい映像化作品と違うのだろうか?
驚きの先進性
色々な違いがもちろんあるのだが、腰を据えて原作を読んで筆者は驚きを禁じ得なかった。まだ平成が始まったばかりのころの作品でありながら、内容はかなり斬新で、すでにAIの存在について触れられている。「ネット」という言葉が当たり前のように登場し、明らかに情報ネットワークのことを指しているが、時代は1989年である。インターネットの起源は1969年に運用が開始された、軍用の情報ネットワーク「ARPANET」だが、それが「インターネット」として一般人でも当たり前に使える技術になるのはもっと後の時代の話である。爆発的に普及したのはにパソコン用OSの「Windows 95」とWebブラウザの「Netscape Navigator」が浸透するようになってからであり、1995年のことだ。筆者はITエンジニアとしての経験もあるため、これらの設定には驚いた。
欄外に事細かな設定を書き込むのが士郎正宗氏の特徴だが、詳細なミリタリー設定から、サイボーグが存在する近未来の法律、未来の技術について細かく設定が書き込まれている。マイクロマシンも全身サイボーグも現代の現実世界には存在しないが、理屈的にリアリティーを感じる設定内容で。サイバーパンクであると同時にハードSFとしての要素もあると筆者は感じた。
現実と地続き感のある政治設定も登場する。今、色々と国際問題を起こしているロシアだが、ロシアは地理的にわが国にも近く、良くも悪くも関係の深い国だ。近い国同士は少なからず、何かしらの領土問題を抱えているものだが、わが国とロシアは北方領土問題がそれにあたる。
『攻殻機動隊』の世界では、他の政治的思惑から、少なくとも形式上は北方領土が我が国に返還されているようだ。