大暮維人が描く少年たちの成長譚『灰仭巫覡』が面白い “原作つき”から離れた強烈なオリジナル作品

大暮維人『灰仭巫覡』レビュー

「母の喪失」が少年たちを成長させる

 そして、もうひとつ。本作で注目すべきは、ふたりの主人公――仭とガオのいずれもが“母を失った少年”であるという点だろう。

 通常、漫画にかぎらず、物語において「母の喪失」とは、いわゆる「父殺し」と共に、少年の「成長」ないし「成熟」を促す装置として表わされる場合が多い。つまり、「母子共生」というある種のユートピアの崩壊が、少年を否応なく大人にさせる、というわけだ。

 むろん、『灰仭巫覡』の主人公ふたり(の成長)にも、そういう側面はある。だが、多くの物語の主人公(少年)たちが、「母の喪失」と引き換えに何かを得る(成長する)のに対し、仭とガオは、その悲しみを“乗り越える”のではなく、これからも“共に生きていく”という覚悟を決めることで、大人になっていく。

 それゆえ、本作では、“神降ろし”――「巫覡」という「太古から裸で天災と向き合ってきた人間が、気付き、利用してきた力」を操る術(すべ)が、少年たちを強くする技として描かれるのだ。あらためていうまでもなく、そうした自然と人間が共存していた時代に生み出された力というものは、仭とガオがこれからも共に生きていこうとしている、「喪失した母」のメタファーでもあるだろう。「母」とは、私たちを育む大地であり、海である。

 いずれにせよ、「母」を失った少年たちは、大人にならざるをえなかった。しかし、彼らはまだ若く、“敵“の存在はあまりにも強大だ。ならばどうすべきか。頼れる仲間を集めるしかないだろう。じっさい、仭にはガオが、ガオには仭が、そして、御陵姉妹をはじめとした美しい少女たちのサポートがある。また、「喪失した母」たちの加護もある。だから彼らは強くなれる。

 周知のように、近年の大暮維人といえば、『バイオーグ・トリニティ』と『化物語』という、原作つきの作品で辣腕を振るってきたわけだが(前者は舞城王太郎、後者は西尾維新原作)、ここに来て強烈なオリジナルストーリーを放ってきた、ともいえるだろう。『灰仭巫覡』――注目の一作である。

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