Kis-My-Ft2 宮田俊哉 作家デビュー作『境界のメロディ』評:音楽の楽しさと今を目一杯に生きる大切さ
アイドルグループとして活動し、ほかにも俳優や声優といった多方面で活躍している宮田も、ファンの支持に応えたいという思いと、自分がやりたいことをやり抜きたいという思いの板挟みになったことがあるのだろうか。グループの中で方向性や考え方が分かれるようなことがあった時、同じように悩んでケンカして仲直りしたのだろうか。20年に及ぶ芸能活動における彼のスタンスについても考えてみたくなる。
カイと親しかった人たちが、彼を失って心に開いた穴を埋めていった先で、パートナーだったキョウスケ自身の「忘れ物」も見つかって、一応の大団円を迎えることになるが、それで終わりとはしたくない気持ちを、宮田は持っている様子。あとがきではサムライアーのその後を描くスピンオフを書いてみたいと言っている。『境界のメロディ』の特集が組まれた『ダ·ヴィンチ』2024年6月号に掲載されたインタビューでは、アニメ化への思いを訴えている。どのようなキャストやキャラクターデザインや監督で映像化されるのかを想像してみたくなる。
カミツキレイニーの『魔女と猟犬』(ガガが文庫)や、九岡望『プラントピア』(電撃文庫)といったライトノベルの表紙を手がけ、ゲームやバーチャルYouTuberのキャラクターデザインでも活躍するLAMを迎えたイラストに描かれたカイやキョウスケ、そしてサムライアーのメンバーは誰もがカッコ良く、動いているところを見たくなる。そこに、同時発売されたドラマCD付き特装版でキョウスケを演じた声優の伊東健人,カイを演じたSnow Manの佐久間大介による声が付けば完璧だ。
宮田自身も声優として活動しており、6月14日公開のアニメ映画『ブルー きみは大丈夫』で主人公のブルーを演じて美声を聞かせてくれている。自分の小説のアニメ化なら絶対に出たいだろう。ドラマCDではナレーションを務めているが、演じるとしたらどの役が良いかも考えてみたくなる。
そうしたメディアミックスの可能性も想像すると楽しいが、小説家としてデビューした以上は創作活動を続けてくれるかに期待したくなる。カイとキョウスケがであった音楽室や路上ライブの現場といった場所の風景が思い浮かぶ文章と、人なつっこくて強引なところもあるカイをはじめとしたキャラクターの性格が滲むようなセリフ回しの巧みさ、そして、読む人を感動させるストーリーを構想する力があれば、小説家として続けていけるだろう。そこには、エンターテインメントの世界で長く活動を続けてきた経験も織り込まれれば、どれだけの面白い世界が生まれるか。期待が膨らむ。
一足早く著作『トラペジウム』がアニメ映画になった乃木坂46一期生の高山一実は、アイドルになって活躍した中で経験したことを小説に盛り込み、決して華やかなだけではないアイドルの世界、芸能界の世界で生きていくために大切なことを描いてみせた。高山より長いキャリアと幅広い仕事の経験を持つ宮田なら、もっとシリアスなストーリーを紡げるのだろうか。それとも大好きだという『灼眼のシャナ』や『ゼロの使い魔』といったライトノベルのような、エキサイティングでファンタスティックなストーリーを創造してくれるのだろうか。
楽しみだ。