“推し疲れ”しないコツってあるの?『腐女子のつづ井さん』から学ぶ、人生を愉しく生きるコツ

■BLが好きなオタクとしての愉快な日々

(左から)『老犬とつづ井』『とびだせ!つづ井さん』(文藝春秋)

  好きなものに熱中し、時に友と語らい、時に愛を表現する――そんな”推し活”が人生を楽しくするのだ、ということを体現しているコミックエッセイストがいる。デビュー作『腐女子のつづ井さん』(KADOKAWA)が「第20回文化庁メディア芸術祭」推薦作品にも選ばれ、以降も人気シリーズを描き続けているつづ井さんだ。

  先日、新刊となる『老犬とつづ井』『とびだせ! つづ井さん』(‎ともに文藝春秋)が発売され、続いて『つづ井さん』シリーズの実写ドラマ化が発表された。“腐女子”という少々マニアックな特徴を持つ作者が、なぜこんなにも支持されるのか?

  アニメや漫画を愛し、男性同士のロマンスにときめきを見出すBL(ボーイズ・ラブ)が好きなオタクとしての愉快な日々を綴った『腐女子のつづ井さん』での具体的なエピソードを例に、人気の理由を探る。   

■オタク、こう在るべし 価値観を否定しない柔軟さ

  まず注目したいのは、『腐女子のつづ井さん』で描かれているつづ井さんのオタクとしてのスタンスが”他人の価値観を否定せず、新しい概念や考えに触れることをためらわない”という点だ。

  本作に収録されている「腐女子と異文化交流」で、アイドル好きの友人に「…あのさ 純粋な疑問なんやけど …推しが3次元ってどんな感じ?」と訊いたつづ井さん。自分が今まで持っていなかった斬新な考えを告げられた彼女は、「すごい勉強になる アイドルってすごいね…!!」と感心する。

  筆者はここにオタクたる者こう在るべし、という姿を見た。例え自分にはない価値観だったとしても、肯定し受け入れる――それこそが人間関係構築において最も平和的な、相手に歩み寄る第一歩なのである。

  つづ井さんはコミュニケーションによって相手を理解することに長けており、決して独りよがりな態度を取らない。気の置けない友人を相手にしても、恋愛や結婚など、大事なテーマを語り合うときは真剣に言葉を選び、ディベートする真摯さがある。

  旧来の友人であるオカザキさんとの会話で展開される「腐女子と恋愛」では、”男同士の友情を熱く描いた小説が実写映画化したので観てみたが、内容が改変され主人公とヒロインの恋愛映画になっていた”という話から、巷にあふれる恋愛ものの受け止め方について語る2人が描かれる。

  女性が社会から強いられがちな規範や既成概念に対し、時に誰よりも深く真面目に考え、「私たちは私たちのままでいよう」「楽しく生きよう」と思える心の広さと柔軟さ。誰かや何かを”推す”ことは人生を豊かにする、という言葉にますます信憑性を持たせてくれるエピソードだ。

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