鳥山明 大好きだったクルマやバイクに飛行機ーーコミックの扉絵に登場する圧巻の乗り物たち

鳥山明の圧倒的「センス」を分析

■鳥山氏が描いた多くの乗り物は画才が際立つ真骨頂

  鳥山明という不世出の漫画家が亡くなられたことに驚きを隠せない。亡くなるにはあまりにも若過ぎるし、ほとんどメディアに顔を露出することがない御方だったため、鳥山氏の印象は「徹子の部屋」にゲスト出演したときの若かりし頃のままで止まっていて、元気な姿しか想像できなかったから。

  鳥山氏を回顧するとき、筆者が強烈に印象に残っているのは「ドラゴンボール」よりも「Dr.スランプ」。キャラクターや世界観が唯一無二のものだったことは今更説明すべくもないが、いつもワクワクしていたのは、ゲンゴロウ島ペンギン村という舞台で鳥山氏が大好きなクルマやオートバイ、飛行機などの乗り物がたくさん登場していたことだ。特にコミックの扉絵は圧巻だった。

  鳥山氏が好きであろうクルマ、オートバイ、戦闘機などが高頻度で登場し、映画や特撮のワンシーンなどのパロディも多かった。コミカルに描いたと思えば、たまに劇画風も差し込んでくる。リアルな模写であっても絶妙にディフォルメしたタッチで描くことができるのは、画才に突出していた鳥山氏の真骨頂だろう。

ざっと「Dr.スランプ」を読み返してみると、クルマだけに絞っても、思っていた以上にたくさんのクルマが登場している。

◇アウトビアンキ・A112
◇アルピーヌ・A110
◇ウーズレー ・ホーネット
◇シトロエン・2CV
◇スバル・360
◇ダイハツ・Bee
◇トヨタ・スポーツ800
◇BMW・2002
◇BMW・イセッタ
◇フィアット・アバルト695SS
◇フィアット・パンダ
◇フィアット・リトモ
◇フィアット・500
◇フィアット・600
◇フィアット・X1/9
◇ホンダ・シティ
◇ホンダ・S800
◇マツダ・キャロル
◇マツダ・R360クーペ
◇ルノー・5ターボ
◇ローバー・ミニ クーパー

  ああ……キリがない。まだまだあるが、この辺で。あまりにも扉にクルマを描き過ぎて、当時の担当編集者の鳥嶋さんに(Dr.マシリト!)「きみー、またクルマか、いいかげんにしてくんない? あきちゃったよ。このマンガはクルマが主人公だったけ?」と嫌味を言われてしまったというエピソードもコミックの著者紹介で明かしている。

  ちなみに、コミック14巻には「わしと自動車」という箸休め的なコラムがあり、鳥山氏は、好きなクルマについて大いに語っている。

 「わしのスキなクルマは ちいさくて カーブがいっぱいあって かわいいやつで ほとんどスタイルで 決めてしまうのだが 欲をいえば それでいて速く走ったら もういうことはない。ちかごろのクルマは 性能的にはすごくよろしいのだが カッコウに いまいち おもしろ味がないから なんとなくスキになれない」(原文ママ)

 「Dr.スランプ」連載当時の鳥山氏の愛車は、初期段階ではホンダ・シティであることがコミックで触れられていたが、10巻の著者紹介でアウトビアンキを購入したと報告。もちろんそれ以降、たくさんのクルマを所有することになったはずだ。

  あまり知られていないが、鳥山氏はクルマのデザインも手掛けている。2005年に、チョロQとEV自動車を掛け合わせたような「QVOLT(キューボルト)」が「チョロQモーターズ株式会社」から発売。世界限定9台のマイクロEVであった。

  そんな鳥山氏だが、元々好きだったバイクは50ccバイクだったはずだが、連載終盤で中型免許を取得してからは興味が250cc移ったらしく、扉絵もバイクが俄然多くなる。その頃にオートバイ小僧というキャラが登場し、2輪限定の「第2回ペンギングランプリ」も開催されるのだから、納得だ。

  とにもかくにも、鳥山氏は、忙しいなかで、自分の好きな乗り物を描くことが一番の癒しのときだったのかもしれない……と想像してみた。

トップ画像:©️バード・スタジオ/集英社・東映アニメーション

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる