「商業カメラマンが育っていないんです」ベテラン雑誌編集者が嘆く、出版業界の構造的な問題点
■素人フォトグラファーに仕事を発注?
イツバネットの代表取締役・河戸弘太氏が、小・中学校の入学式を撮影するフォトグラファーをあろうことかXで募集したとして、炎上した。同氏はXを更新、謝罪に追い込まれてしまったニュースが話題となった。撮影は中止することに決めたという。
この度は小中学校の入学式の撮影案件につきまして多くの方にご心配・ご迷惑をお掛けしましたこと誠に申し訳ありません。
詳細につきまして文字数の関係で下記にて記載させていただきます。 pic.twitter.com/PUionKpRzd— 河戸 弘太 | itsuba.net LLC (@itsuba2) March 3, 2024
募集要項は「一眼レフで人を撮った事がある方」というもので、報酬は3万5000円というものだった。この募集要項を読んだ限りでは、趣味レベル、素人レベルのフォトグラファーが応募してくる可能性があり、しかも教育現場に立ち入る仕事がそんなものでいいのかと、X上で議論が巻きおこった。
最近、アニメーター志望の中学生にアニメの原画を発注したというニュースが騒動になっていた。この事件の真偽は不明である。しかし、今回のフォトグラファー募集の事例を目にすると、あながち嘘ではないのではないか、実際起こってもおかしくないのではないか、と思わざるを得ない。
あらゆる業界で起きていることだが、納期ばかり厳守する一方で、専門職をないがしろにする発注者が続出している印象だ。写真の場合は「撮れていればいい」、アニメの原画は「描けていればいい」という感覚が蔓延してきており、専門性の高い技術が求められなくなりつつある。
■若いフォトグラファーが育っていない?
筆者は長年、紙媒体で記者の仕事をしているのだが、一緒に仕事をする編集者は「若い商業カメラマンが育っていない」と嘆くことが多い。編集者はこう話す。
「若いカメラマンの写真を見ると、ポートフォリオの段階で首をかしげるクオリティのものが少なくない。アイドルの写真集などを見ると、一昔前では考えられなかった写真が多く掲載されており、唖然とすることがあります。確かに、ポートレート、風景など、特定のジャンルに特化して写真を撮れる人は健在です。ただ、商業カメラマンに求められる、なんでも撮影できるスキルを持つ人材が育っていません」
編集者が言うには、昭和の時代は、なんでも撮影できるフォトグラファーがたくさんいたという。それは、当時は師匠のもとで修業して一通り技術を覚え、経験を積んでから独立するのが代表的な流れであったためである。
というのも、かつてはカメラを使いこなすだけでも難しく、素人ではきれいな写真を撮るのが難しかった。ゆえにフォトグラファーは専門職というイメージが強く、専門の道具を一から覚える必要があったし、万能のスキルが求められたのである。