『偶発的ルネッサンス少女』『ラージャ』『黄泉のツガイ』……漫画ライター・ちゃんめい厳選! 1月のおすすめ新刊漫画
今月発売された新刊の中から、おすすめの作品を紹介する本企画。漫画ライター・ちゃんめいが厳選した、いま読んでおくべき5作品とは?
『偶発的ルネッサンス少女』さわぐちけいすけ先生
同級生の平凡な少女がふとした瞬間に“名画”に見えてときめいてしまう。例えば、座席に座っているだけの一瞬が「モナ・リザ」と重なったり、教室に蜂が入ってきて大騒ぎしている様子が「ヴィーナスの誕生」に見えたり.........。何気ない日常のなかで、無意識に名画と同じ構図や光の当たり方を再現してしまう“偶発的ルネッサンス”な少女・エミと、それに魅せられた少年・リクトの物語を描いた本作。アートをテーマにしたマンガは数多くあれど、こんなにも大胆かつユニークな設定の作品は今まであっただろうか。名画の魅力や美しさを、作品の背景や作家性ではなく“構図”から紐解いていくという新たなアプローチ......。間違いなく設定大優勝マンガなのである。
「アートの指南書」として楽しめるのはもちろん、エミが起こす一瞬の奇跡は、そんなことある?! ってくらい奇跡的でちょっぴりシュールなギャグマンガのよう。ただ、リクトが一瞬の奇跡に魅せられたように、美しい名画たちも巨匠が遥か彼方昔に感じた一瞬のときめきから始まっているのだろうと。芸術の始まり、美の真髄を垣間見たような気がした。
『ラージャ』印南航太先生
昨年、「“ナートゥ”をご存じか?」でお馴染みのインド映画『RRR』が日本中を席巻したのは記憶に新しいことだろう。『ラージャ』は、まるでその勢いに続くかのごとく「“古代インド”の歴史をご存知か?」なんて声が聞こえてきそうな作品だ。物語の舞台は古代インド。当時は複数の国に分かれていて、各国がしのぎを削り争い合っているという超激動の時代。『ラージャ』とは、そんな時代に終止符を打つべく、インド統一を目指す青年・カウティリヤの生き様を描いた作品。一度ページをめくれば、筋肉隆々な漢たちの取っ組み合い、カウティリヤのことを「最高の師であり無二の友、そして兄弟だ!」と称える、これまた筋肉隆々な王子が登場するなど、とにかく熱気がむんむんしている。さらに、王のセリフに登場する「謁見(タイマン)」「王位(カイカン)」などのルビ芸からも、たぎるようなアツさをひしひしと感じる。
『RRR』さながらの熱気が充満している本作だが、本作の一番の魅力はカウティリヤという漢を主人公に据えたところにある。カウティリヤはインド統一を夢見て“王”を目指すのだが、なんと彼は最終的には王にはならないことが1話早々に明かされる。王ではなく天才軍師となり、初代帝王・チャンドラグプタとインドを統一し「マウリヤ帝国」を建国する……というのが彼の歴史であり、揺るがぬ運命なのだ。
王を目指すも、結局は王にはなれないカウティリヤを主人公に据えた意外性もさることながら、古代インド統一の歴史を王という真正面の立場ではなく“王になりたかった軍師”という立場の目線で描く点が本作の面白さだと思う。本来とは別の道で志を成し遂げたその男は、一体その目で何を見て、何があって、どんな運命を辿ったのだろうか。その鋭い眼光から目が離せない。
『黄泉のツガイ(6)』荒川弘先生
宝島社「このマンガがすごい!2024」オトコ編第2位に輝き、ますます注目を集めている『黄泉のツガイ』。“ツガイ使い”と呼ばれる異能力者たちが織りなすバトルファンタジーで、作中には現代社会から隔絶された謎の村、世界を統べる力を持つ双子の存在、妖怪などが登場するため、バトル一辺倒ではなく、伝奇モノ好きの心をくすぐる内容となっている。最新刊6巻では全てがひっくり返るような裏切り、予想外の展開が待ち受けているため、読後の感想としては「驚き」が一番にくることだろう。だが、私はこの巻を読んで無性に安心して嬉しくなったものだ。それは、過酷な宿命を背負うユルとアサの側には“頼れる大人”がいると実感できたから。
世界を揺るがすほどの強大な力を持つユルとアサ。2人の力を求めて、まるで道具のように彼ら彼女を扱い、ひどい裏切りを働く大人たちが溢れる世界で、本巻でのデラさんとガブちゃんの振る舞いはどんなに救いだったことだろう。
いつも気丈に振る舞っているユルとアサだが、2人はまだ子供だ。そんな2人のことをしっかりと子供として扱い「俺を、私を頼れよ!」と言わんばかりに行動で示してくれるデラさんとガブちゃん。そんな強くて聡明なキャラクターたちに胸がいっぱいになった。