【漫画】ウツ病引きこもりニートの27歳女性が婚活に奮闘 漫画『ウツ婚!!』に勇気づけられる

ーー摂食障害や対人恐怖症に悩む方を漫画化するのは苦労もあったと思います。最初に原作の『ウツ婚!!』を読んでどう感じましたか。

磋藤にゅすけ(磋藤):すごく愛に溢れていて優しい本だと思いました。前半物語編はサービス精神に溢れていて、少し自分を下げ過ぎなんじゃないかと思ってしまうくらいの自虐も含めとても楽しく拝読させていただきました。

 後半HOW TO編は細やかな生き抜くためのメソッドがふんだんに詰め込まれていていました。生きるてるのが苦しいとき、漠然とした励ましの言葉を投げかけられても「じゃあどうすればいいいってんだよ」って思います。そういう時に必要なのは「具体性」だと思っています。HOW TO編には具体的になにをすべきか、どういう考えをすべきかなどがとても細やかに書かれていました。心から読者の人に生き延びて欲しいと思って書かれたんだなと感じました。

 物語編には膨大な量の注釈があり、石田さんの人となりを知るのに大変楽しい内容になっているのですが、のちに伺った時に、物語に没入してフラッシュバックを起こしてしまわないように装置として注釈を入れてあると聞き、頭が下がる思いでした。徹底して優しさに溢れている一冊だと思いました。

ーー『ウツ婚!!』は原作者の石田月美さんご自身のことを書いた作品です。石田さんのことを描く上で避けたことや、率先して描いたことなどがあればお聞かせください。

磋藤:コミカライズするうえで石田さんとの共通認識は「悪者を作らない」という事だったと思います。なんで病んだか、どんなひどい目にあったか、などはなるべく描かないようにしました。原作がとても楽しく優しいお話だと思いましたので、その雰囲気を壊さないように、そのまま漫画でお伝えしたいと思いました。

 あとは原作「HOW TO 編」のメソッドも極力入れるようにしました。やっぱり原作『ウツ婚!!』の素晴らしさはHOW TO編にも詰まっていると思っていましたので、コミカライズでそこを削っちゃもったいないと思いました。婚活成功譚にしないようにも気を付けました。

 また、コミカライズで最初にも描きましたが、結婚推奨本としては描かないように意識しました。社会と関わる事で月美ちゃんの悩みも個人的な悩みからどんどん社会性を帯びていく。そういう変化を意識して描くようにしました。

ーーウツを表現する上で気をつけたことはありますか。

磋藤:当たり前ですが「なるべく想像で描かないで取材する」という事です。9話のウツ表現は、最初はある程度本や資料を読んでネームを切ってみたのですが、どうにもうまくいかず。というのも、月美ちゃんの表情を泣いたり怒ったりさせていたのです。症状は人それぞれとは思いますが、描けば描くほど表情と言動がかみ合ってないというか「頭で考えたウツのキャラクター」になっていき……。

 原作の石田さんに相談したら、ウツの時はこういう表情になると参考資料をいただきました。他にも解離の症状や本が頭に入ってこない感覚など、石田さんから色々伺えたので作品に反映できましたが、これに関しては石田さんの言語化能力と資料の的確さの賜物でした。改めて自分でも取材能力を磨いていかなければと思いました。

 あとは、「実際にやってみる」です。これは向き不向きがあるのでお勧めしませんが……。例えば冷蔵庫に頭を突っ込んで過食して気絶するシーンは実際やりました。何を食べるのか、参考資料が欲しかったのもありますが、月美ちゃんと同じ事をやって月美ちゃんが何を考えるのか感じたかった。それから、床で寝てコンビニのお弁当を手づかみで食べたりなどもしてみました。袖のどこが汚れるのか、布団のどの部分にヨゴレが付くのかとかが分かるんです。ディティールから物語を考えていく癖があるのでそういう事をしていました。

ーー磋藤先生も、ご自分の人生の危機を脱却するために結婚を考えたことがあると以前の作品で読みました。『ウツ婚!!』に共感できる部分はありましたか。

磋藤:ずっと実家に頼りながら生活をしていたのですが、コロナで父の会社が倒産する事になりその時に婚活をしようとした事はありました。

 結果、私は婚活ではない方法を選びましたが、『ウツ婚!!』と共通する所は「困りごとが起きた時になにをするか」を考える事だと思います。困り事が起きて、誰かや社会の所為にしたり自分を責めても何にも解決しませんから。まずはできる事はなにか考えて動く! これが大事だと思います。

ーー最後に、この漫画を読んでくださった方への一言と、次回作についてお聞かせください。

磋藤:これまでは頭身の低いエッセイ風の漫画を描いていましたが、『漫画版・ウツ婚!!』は月美ちゃんの人生をより近くに感じて欲しかったので、絵柄も物語もストーリー調に変えてました。おかげでストーリー風に物語を作る筋肉がようやく付いてきた気がします(笑)。

 次回作は、月刊コミックバンチに載る読切『トガってないと保てねえ才能なんて捨てちまえ』です。夢見がちな女の子とバンド少年とのお話ですが、全90Pとかなり長くなってしまいました。2月発売号、3月発売号に前後編で載りますので、『漫画版・ウツ婚!!』で鍛えたストーリー作りの成果をご一読いただければ幸いです。

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