昭和の記念切手ブーム、今ならポケモンカード級だった? 最後のプレミア切手、手塚治虫が与えた影響

「戦後50年メモリアルシリーズ 第5集」手塚治虫の記念切手。
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 1960年代、日本は空前の切手ブームに沸いていた。記念切手の発売日となれば、郵便局の前には老若男女が行列を作っていたのである。なかには、記念切手を購入できた人に対し、「その切手を売ってくれませんか」と声をかける業者もいたという。現代のポケモンカードの発売日に見られる光景と同じである。

 子どもたちの間では切手が大ブームになり、「見返り美人」や「月に雁」などの記念切手は羨望の対象とされた。ポケモンカードに例えれば、「がんばリーリエ」のような存在かもしれない。「月に雁」は1枚だけの単片を持っているだけでも凄いのに、金持ちの息子などはシートで持っていたりするもので、世の中の理不尽さを感じた人も多いと思う。

  切手が転売されまくっている状況を苦々しく見ていた郵政省(現在の総務省)は記念切手の発行枚数を増やしまくり、ゆるやかに切手ブームは収束した。1970年代には沖縄返還のタイミングに合わせて、沖縄切手の投機を煽る業者もいたようだが、60年代ほどのブームにならずに切手バブルは弾けてしまった。なんだか、現代のポケモンカードブームも、同じ道を辿りそうな予感がするのは筆者だけだろうか。

  さて、「見返り美人」も「月に雁」も今や投げ売り状態の安値になっており、状態にこだわらなければ数千円で買うことができる。切手収集家も激減してしまっているが、ブーム終焉後もごくごくたまに切手が話題になることがある。

  その最たる例が、1997年1月28日に発売された記念切手「戦後50年メモリアルシリーズ 第5集」である。この切手は、私が選んだ懐かしのスターと題し、美空ひばり、石原裕次郎、そして手塚治虫の合計3人を図案に描いたものだ。歌手、芸能人、漫画家が切手の題材になることは画期的で、特に手塚治虫の切手は『鉄腕アトム』や『リボンの騎士』など漫画のキャラクターが大々的に切手に使われた先駆けであり、大きな話題を呼んだ。

  マスコミで盛んに報じられたこともあり、発売日には郵便局に行列ができる騒ぎとなり、60年代の切手ブームの光景が再現される形になった。筆者が住んでいた秋田県の田舎町でも郵便局に並ぶ人が多かったと記憶している。つくづく、日本人は限定品が大好きだし、マスコミの煽りに乗りやすいものだなあと思う。

  さて、この手塚治虫の切手、プレミアはついているのだろうか。残念ながらまったくついておらず、切手商に持ち込んでも、額面の80円以上で買取してもらうことは無理である。80円以下の金額で引き取られることになりそうだ。何しろ、5000万枚も発売されているのだから、希少価値はほとんどないと言っていいだろう。

  しかし、この切手がその後の切手に与えた影響は大きい。これ以前の切手はいかにもお役所仕事的な、真面目で、堅実で、お堅いデザインが多かった(その方がいいという収集家もいるが)。「戦後50年メモリアルシリーズ 第5集」の評判に気を良くしたのか、郵政省はその後も漫画やアニメの切手をどんどん出すようになったのだ。そういう意味で、手塚治虫の切手は歴史的な名品ということができる。

  切手と並んで趣味の王様といわれるコイン(古銭)は、投資家や富裕層の間でアンティークコインや金貨を中心にブームになっている。切手ブームも再び起こり得るのだろうか。2014年に発売された2円の普通切手は、エゾユキウサギの絵柄がかわいいと話題になった。やはり、魅力的な題材が必要だろう。『【推しの子】』のアイやアクア、ヒカキンやはじめしゃちょーの切手はどうだろうか。SNSでバズって、人気が出るかも……しれない。

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