筒井康隆『カーテンコール』で吐露された本音 SF第一世代の“最後の作品集”を読む

筒井康隆『カーテンコール』評

 さて、そのようにパラエティに富んだ収録作だが、特に留意すべき作品が二つある。一つは「川のほとり」だ。51歳で亡くなった長男と、夢の中で作者が話すという内容だ。三途の川らしきものが見える場所で、これが夢だと理解しながら、話しているうちは息子が消えないと思う作者の姿に、やるせない気持ちが込みあげる。同時に、息子を失った悲しみすら物語にしてしまう、作家としての業に戦慄せずにはいられない。

 そしてもう一つの作品が「プレイバック」だ。検査入院をしている作者のもとに、『時をかける少女』の芳山和子、『文学部唯野教授』の唯野教授、『富豪刑事』の神戸大助、『パプリカ』の千葉敦子など、自作の主人公が次々と訪れる。その後には、すでに亡くなったSF第一世代の作家たちも訪れるのであった。

  ただしこの作品が執筆された時点では豊田有恒は存命であり、「ひとりだけ、存命する豊田有恒がいたが、彼は自分がどうしてここにいるかわからぬという戸惑いを表情に漂わせて周囲を見まわしている」という一文が、今となっては切ない。また、死んでいった仲間たちに向けた最後の叫びは、作者の本音であろう。前半の主人公たちとの会話では、自己の作品に対する評価をちゃかしながら、後半で本音を吐露する。筒井康隆という作家とその作品を考えるうえで、見逃すことのできない一篇なのだ。

 なお本書の装画は、漫画家のとり・みきが担当している。カバーを取ると、本書の内容を踏まえた装画の意図が分かるようになっている。本が手元にある人は、ぜひとも確認してもらいたい。

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