【書店ルポ】埼玉県越谷駅、ベッドタウンの駅前からも消える本屋……飲食店や薬局に、変わりゆく街並み

 JR中央線沿線の阿佐ヶ谷駅前にある書店「書楽」が閉店を発表するなど、都市部での駅前書店でも新刊書店が消滅する事態になっている。そうした傾向は、埼玉県などのいわゆる東京のベッドタウンと呼ばれるエリアも同様であるという。具体的な例を見るために、人口約34万人を有する埼玉県越谷市を訪ねた。

マンションや雑居ビルが立ち並ぶ越谷駅前

 現在、東武伊勢崎線(東武スカイツリーライン)沿線では、駅の高架や商業施設の改修工事が行われている。そのうち越谷駅は市役所の最寄り駅であり、越谷レイクタウン駅や新越谷駅が開業してからも、依然として越谷市の中心駅である。12月7日には駅の商業施設の改修が終わり、「EQUiA(エキア)越谷」がオープンする。「東武ストア」や「ミスタードーナツ」などがテナントとして入るという。

  前身の商業施設の一角には、かつては小規模な書店「CROSSBOOKS 越谷店」があった。しかし、「EQUiA越谷」にはどうやら入店しないようだ。書店があった場所には「サーティワンアイスクリーム To Go」が入る。駅をよく利用するという高齢者は、「施設も綺麗になるでしょうし、賑わいが生まれるのは間違いないでしょうね。でも、書店が残らなかったのは残念。文房具も売っていたし、電車に乗る前にふらっと立ち寄れたのに」と話した。

  越谷駅から少し離れた場所にある商業施設、「アルコ越谷」には小規模書店「文之堂」があり、市役所に向かう通りには中古書店の「ブックオフ」がある。しかし、駅からは書店が完全になくなった。通勤通学のついでに雑誌や漫画を買うという光景は、完全に消滅したことになる。越谷駅のように、商業施設の改修後に、書店が残らないというケースは多いようだ。

  一駅先にある北越谷駅前も、2021年に駅前から書店が消滅した。かつては駅のすぐ横に「文真堂書店北越谷店」という中規模の書店があったが、「マツモトキヨシ」になった。最寄りの書店は、駅から徒歩で10分ほどの場所にある「ほんのいえ宮脇書店越谷店」であり、これほど離れてしまうと駅前の書店とは言えないであろう。駅前で高齢者に話を聞くと、「マツモトキヨシはとても便利。食料品もあるし、安いからスーパーみたい。書店は無くなっても特に困っていない」と言われた。

  何人かに話を聞いたが、「書店はないと寂しいが、なくても困らない」という意見が少なくなかった。特に、紙の本を支持しているとされる高齢者から、そうした声が聞かれたのは衝撃的であった。これでは書店の苦境も感じざるを得ない。

開業に向けて工事が進む「EQUiA(エキア)越谷」。この一角にかつて書店があった。
北越谷駅。利用者が多いため、駅には飲食店などが多数テナントとして入っている。
「文真堂書店北越谷店」の跡地では「マツモトキヨシ」が営業中。規模が大きく、生活用品も揃うので便利な店である。

 なお、北越谷駅はネーミングから誤解されがちだが、ローカル駅ではない。駅前からは人口約2万7千人の松伏町方面へと向かうバスが、多く運行されているターミナルである。夕方になるとバス待ちの行列ができる駅前からも書店が消えてしまうのだ。

 越谷市最大の規模の駅は、東武鉄道とJR武蔵野線の南越谷駅との乗り換え駅にあたる、新越谷駅だ。新越谷駅の駅ビルには「旭屋書店新越谷店」があり、多くの客で賑わっていた。駅ビルは現在、改修工事の真っ只中にあるが、幸いにも書店は残りそうだ。しかし、越谷駅と北越谷駅のような駅からも書店が消えてしまう状況からも、越谷市近辺の書店の行く先が心配である。

 リアル書店には、本を比較して選べる魅力があるし、ふらっとのぞいた時に本と出合うなど、ネット書店にはない魅力がある。近年は著者も出版社も、ネット書店や電子書籍へと誘導する動きがあるが、町のリアル書店を守るような働きかけも必要なのではないか。コロナ騒動の余波もあり、業界が団結して守らなければ、立ち行かなくなる書店は増えてくると考えられる。

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