アニメが無料配信中 20周年を迎えた野球漫画『おおきく振りかぶって』が“今面白い”理由

『おおきく振りかぶって』が“今面白い”理由

 「月刊アフタヌーン」で連載中の人気野球漫画『おおきく振りかぶって』のアニメが12月31日まで、YouTubeチャンネル「フル☆アニメTV」で無料配信されている。連載20周年を迎えたことを記念する取り組みで、野球好き/アニメ·マンガ好きともにぜひチェックしたいところだ。

【1~2話】おおきく振りかぶって 1期 2023年12月31日(日)23:59まで

 さて、一定数の読者にとってスポーツ漫画が「非現実的とも言えるスーパースターに夢を見るもの」だとしたら、野球漫画業界はいま、苦境に立たされている部分があるかもしれない。それは当然、大谷翔平という漫画を超える選手が現実に生まれてしまったからだ。

 世界最高峰の米メジャーリーグを二刀流で席巻し、ホームラン王まで獲ってしまうという「結果」はもちろん、3月に行われた第5回WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)での「ドラマ」は、漫画で描かれれば興醒めするほどできすぎたものだった。

 あらためて振り返ると、最強のライバル·アメリカとの決勝戦、3対2と日本の1点リードで迎えた9回に大谷はクローザーとして登場。バッターは大谷のチームメイトにして、MLBを代表するスーパースターであるマイク·トラウトだった。結果、見事に三振に切って取り、日本が優勝ーー。ちなみに、人気野球漫画『MAJOR』にも近いシチュエーションのエピソードがあるが、「W杯」で同じくアメリカ相手にクローザーで登場した主人公の吾郎は、お互いの父親の代から深い因縁のあるジョー·ギブソンJr.にサヨナラ満塁ホームランを浴びている。

 『MAJOR』は今読んでも面白いが、結果だけ見れば「それ以上」といえるドラマが現実になっており、今後「世界の最高峰」という夢を描くタイプの作品は大谷の衝撃に少なからず影響を受けることになるだろう。「最多勝+ホームラン王」も、「完全試合+サイクルヒット」も、大谷なら実現しかねないのが恐ろしい。

 そんななかで、『おおきく振りかぶって』はそうした影響を受けない作品だといえるだろう。主人公は大谷とは似ても似つかない、泣き虫で卑屈とすら言える三橋廉。三橋が抜群のコントロールといい変化球を持っていることを知り、活躍を支えていく捕手·阿部隆也をはじめ、「人の関係」を細やかに描き、かつスポ根とは距離を取り、試合においては細かすぎるほどの読み合いが展開されるのが特徴的だ。ソフトボール部出身で、大学ではスポーツ心理学を専攻した作者·ひぐちアサの能力が遺憾なく発揮されており、大谷のような燦然と輝くスターだけでなく、全ての野球人にドラマがあり、チームスポーツとしての野球の面白さを理解できる作品なのだ。

 大谷翔平をはじめ、山本由伸や佐々木朗希、村上宗隆など、スーパースターの活躍で野球に関心が集まった今年だからこそ、野球人気を支えてきた別の側面である高校球児たちの活躍を繊細に描いた『おおきく振りかぶって』は、なおさら面白く感じられるのではないか。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる