添加物は悪者なのか? 相次ぐ食中毒事件から考える無添加問題と食の安全
食の安全を揺るがす事件が、今年になって相次いで発生している。11月11日~12日にかけて東京ビッグサイトで開催されたアートイベント「デザインフェスタ」で販売されたマフィンを食べ、嘔吐や下痢などの食中毒症状に見舞われた人が続出した。マフィンを販売した、東京・目黒区にある焼き菓子店「Honey×Honey xoxo」(ハニーハニーキス)はX上で謝罪し、現在、約3000個の回収を行う事態になっているが、収束の気配は見えない。
年内に発生した記憶に新しい食中毒事件といえば、青森県にある駅弁屋が製造した弁当を食べ、体調不良を訴える人が全国で続出した件だろう。また、秋田県の道の駅では毒キノコが販売されて回収騒ぎになっているし、関西の企業が販売したグミを食べて体調を崩す人も相次いだ。この1年ほど、食の安全に対して関心が集まった年はないかもしれない。
特にネットを騒がせているのが、前出のマフィンの食中毒である。いわゆる添加物の不使用をウリにしたマフィンであり、消費期限はもって1~2日といわれるものを、5日前から製造を始めるなど、杜撰な衛生管理を行っていたことが発覚した。さらに、砂糖を多く加えなかったことで腐敗が早く進んだという指摘もあった。
今回のマフィンの食中毒事件に関しては、『虚無レシピ』が話題になっている料理研究家のリュウジ氏や、実業家の堀江貴文氏など、著名人も反応。多様な観点から意見を述べている。
リュウジ氏はXを更新し、食品添加物について「『積極的に使え』とは言わないけど衛生的観点から『適切に使った方が下手な無添加食品より安全』という認識は広がった方が良いと思う」とポストした。そして、「無添加だから安全、オーガニックだから安全は幻想です」と意見を述べた。
堀江貴文氏は、自身の動画で「『保存料無添加で、砂糖半分で、お子様でも安心して召し上がりいただけます』って...もう、逆やん!」と述べ、「オーガニック志向、ナチュール志向、ほんといくところまでいっちゃったね」と、怒りをあらわにした。
堀江氏は「これまで人類が積み上げてきた知見や知識、知恵がヤバい奴らに全部台無しにされているっていうのがほんと、マジで怒りを覚えるね、俺は」と語り、「マフィン事件はマジで殺人に繋がっちゃうからね。ほんとお前らちょっと反省しろよ、マジで。オーガニック信仰のやつら。保存料使え。砂糖普通に入れろ!」と述べた。
添加物を悪者扱いする風潮は以前からあった。現に、1960年代、70年代は怪しいものがたくさんあったのも事実である。これは高度経済成長期の暗部ともいえるものだったが、堀江氏が指摘するように、科学の進歩によって年々改善・改良されてきたのだ。食品添加物が食中毒の予防に貢献してきたのは、事実と言っていいだろう。
ところが、1999年に「週刊金曜日」が刊行した『買ってはいけない』や、2005年に安部司の『食品の裏側―みんな大好きな食品添加物』がベストセラーになったことで、再び添加物の問題が広く認知されるようになった。安部は『美味しんぼ』にも登場し、食の安全を訴えている。ただし、あくまでもこれらの本の著者は、添加物を全否定しているわけではなく、読者が自ら考えるようにと促しているのだと理解する必要があるだろう。
一方で、堀江氏が語るように、オーガニック志向を拡大解釈した一部の人々によって、食品添加物は何でもかんでも危険とする過激な風潮が生まれてしまった面がある。皮肉なことだが、今回の食中毒事件は、添加物の意義について考える機会を人々に与えたといえよう。結局のところ、添加物の使いすぎはよくないが、使わなすぎもよくないのである。バランスが大切だ、という点に落ち着くのではないだろうか。