『呪術廻戦』特級呪霊・漏瑚は単なる“噛ませ犬”ではないーー強者と対峙して示した存在感
漏瑚が浮かび上がらせた強者の実力
漏瑚が本作の要素をわかりやすく提示したのは領域展開だけではないだろう。
前述したエピソードにて五条と対峙した漏瑚は、コンクリートの道路が溶けるほどの火炎放射、強烈な音と爆発を浴びせる「火礫蟲」など、五条に猛攻を仕掛ける。しかし五条は立ち昇る煙の中から何食わぬ顔で姿を現し、ときに漏瑚と握手をするなどの余裕を見せながら、体術と無下限呪術、領域展開で漏瑚を圧倒した。
五条の力を見せつけられた漏瑚は、第115話「渋谷事変33」で宿儺とも対峙することとなる。宿儺が提示した“一撃でも入れられたら呪霊たちの下につく”という条件のもと、漏瑚はビルの窓から火が吹くほどの猛攻を仕掛け、極ノ番「隕」で渋谷の街を火の海に変えた。しかし宿儺には傷1つさえつけられず、底の見えない宿儺の圧倒的な実力を強調させた。
呪術界において“最強”と称される五条、そして“呪いの王”として君臨する宿儺。そんな作中屈指の強者と相まみえることとなった漏瑚は、2人の強さを浮かび上がらせる、言うなれば“噛ませ犬”のような役割も担っていたのだろう。
ただ、漏瑚を“嚙ませ犬”と揶揄することには、少しばかり違和感が残る。
宿儺との戦闘の直前、漏瑚は1級呪術師・七海建人と、特別1級呪術師・禪院直毘人と対峙し、数ページほどの短い時間で両者を戦闘不能にさせている。七海は呪術師としての階級もさることながら、渋谷事変の序盤で釘崎が苦戦した呪詛師・重面春太を瞬殺した人物。そんな七海を軽くあしらうほどの実力を漏瑚はもっていた。
渋谷事変の時点で(未知の存在である夏油傑を乗っ取った人物を除き)五条と宿儺の実力が抜きんでていることはたしかだ。それまで強者として描かれてきた七海以上の力をもつ漏瑚でなければ、たとえば五条や宿儺に瞬殺されてしまうなど、2人の実力を浮かび上がらせる“噛ませ犬”にさえなり得なかったのではないだろうか。
作中での扱いから一部の読者から“マスコット”としても愛されてきた漏瑚。そんな彼は領域展開の概要、そして作中屈指の強者である五条・宿儺の実力を読者に提示してくれた存在と言える。
自信が影となることで、作品の光とも言える輝かしい存在を強調した漏瑚。そんな彼は五条に「だって君弱いもん」と言われ怒りをあらわにし、宿儺に「誇れ/オマエは強い」と言われ涙を流した。人間は偽物だと訴えつづけ、死の間際でも“我々こそ真の人間だ”とこぼした漏瑚は、本作に登場する誰よりも噓偽りない、純粋な感情をもつ人物だったのかもしれない。ゆえに彼の最期には多くの読者が声を挙げたのだろう。