【ウェブ漫画】生徒はこの世に未練のある“死者”ーー成仏させるために教師が動く『生徒死導』の多面的魅力
「生徒死導」ーーこの言葉を見て、どのようなストーリーを想像するだろうか。
電子書籍サイト「めちゃコミック」でオリジナル独占配信されている本作。筆者はタイトルから、小説『悪の教典』(貴志祐介/文藝春秋)のように、サイコパスの教師が生徒たちを裏切り、命を奪っていく漫画なのではないかと推察した。もしくは問題のある生徒たちを、教師が死をもってつぐなわせる漫画かもしれない。
しかし、最初のエピソードからその予想は覆えされた。『生徒死導』(原作:荒井チェイサー/作画:相羽紀行)は、死人が通う夜間学校「天堂学園」で彼らを成仏させるためにこの世の未練を断とうと奮闘する教師を主人公とした物語なのだ。
ひとつのジャンルに括れない作品
だからといって主人公の教師・五木撫子が善人なのかと問われると疑問が残る。彼女は生徒思いで自分の生徒のためならどのようなことでもする性格だが、時にそれは度を超えた行動となり、狂気じみた印象を与える。五木だけではない。ほかの教師もそうだ。謎めいた人物ばかりであり、無料話分だけを読んだとしても誰が善人で誰が悪人かわからなくなるような感覚に陥るだろう。
それぞれのエピソードでメインとなる生徒たちが成仏できない理由もさまざまで、いじめ殺された少女が自分をいじめた相手に復讐するエピソードもあれば、両親をおいて病死した子どもにスポットをあてたエピソードもある。本作のジャンルはホラー、サスペンス、ヒューマンドラマなどひとつのジャンルにカテゴライズすることができないのだ。
「私がやらなきゃ」
これは主人公の女性教師・五木撫子が自分に言い聞かせている時のセリフである。このシーンも無料話で読めるのだが、彼女が生徒のために「何かやらなきゃ」と願う時、その願いは実る。しかし行き過ぎている感もぬぐえない。彼女は生徒のためなら殺人に近い行為も辞さないのだ。たとえば最初のエピソードでは、いじめで殺された飯塚という女子生徒の「復讐したい」という望みに対して、彼女のために迅速に動いた。五木は善人なのだろうか。それとも生徒のためであればなんでもしようとする、サイコパスなのだろうか。彼女が前の勤務校から非常に生徒を思いやる性格であることは明かされているが、その思いが行き過ぎている感は否めない。一方、五木の生徒と真摯に向き合う性格が幸いしてホラー描写が一切ないエピソードもある。2つ目のエピソード、小学生だった生徒が思い残したことを一教師として果たす物語はそれに該当するだろう。
五木が新任教師として勤め始めた天堂学園の生徒は全員死者、教師も含め生きている人は校長と五木しかいない。五木はある大事故によって霊媒体質になり、それを買われて天堂学園に採用になったのだが、この学校で生きているのは校長と五木だけで、教師もみな死者である。
五木の恩師はなぜ死んだのか
本作には沢田という男性教師も登場する。五木の中学生のころの担任教師で、天堂学園で偶然いっしょになったのだ。そしてこの沢田もまた、死者である。
教師になぜ死者がいるのか。教師もまた生徒たちと同様にこの世に未練があるのか。序盤(13話まで)でそれが明かされることはなく、沢田が死んでいることを知った五木も驚いてはいるが深く追求していない。つまり沢田の死因は明らかになっていないのだ。ここにも謎や伏線が潜んでいる可能性が高いのではないかと私は考えている。死者はみな死んだ瞬間から老いない存在となる。五木の元担任である沢田もまるで五木と同年代のような姿を保ち続けていて、中学校で五木の担任を担当したあと、すぐに亡くなったのはほぼ明らかだ。成仏できない生徒たちが通う学校なら、たとえ生前は教師であったと言えど、沢田も生徒側の人間なのではないだろうか。沢田以外の教師の存在も気になるところである。
これは伏線として残されるのか、それとも謎のままなのか。ここにも本作を続けて読む醍醐味があるように思えてならない。