脚本家志望のみならず、“考察”が変わる画期的な本  三宅香帆が話題書をレビュー『シナリオ・センター式物語のつくり方』

 三宅香帆が読む『シナリオ・センター式物語のつくり方』

  創作術の本は、この世にたくさんある。

  書店へ行って、書きたい人のための本を探してみると、あなたは驚くかもしれない。創作術の棚に、あまりにもたくさんの本がありすぎて。いったい、どの本から読んでいいのか、わからない。創作術といっても、どれが正しいのか、わからない……。

  そんな方におすすめしたいのが、まさに本書である。

  本書の著者は、シナリオ・ライター養成所であるシナリオ・センター創設者の新井一を祖父に持つ、現シナリオ・センター取締役副社長の新井一樹さん。シナリオ・センターは名だたる脚本家や小説家の通う、シナリオ・ライター養成所のなかでもトップクラスの受賞歴を誇る養成所だという。そこで著者は、創作者向けのみならず、学校や企業などに向けてもシナリオ・ライティングの講座を開催している。本書はいわば、「シナリオ・センターで教えられていることが一冊にわかりやすくまとまった本」となっている。

  シナリオ・センターに実際に通う時間がない方や、ちょっといきなりお金を払うのはハードルが高い、と思っている方に、ぜひ入門書として読んでほしい本だ。

  設定の作り方、登場人物や物語の展開の決め方、そして「次が見たくなるシーンの作り方」や「起承転結はどういうふうに使うのか」「どういうふうに登場人物を描き分けたらいいのか」など、創作において困る人が多そうな問いについても、わかりやすく答えてくれている。まさにシナリオ・ライティングの基礎を教えてくれる本なのである。

  ほかにも「才能があるかどうかは考えなくていい」「書くにあたって、正しく悩むとはどういうことか」など、書く上で必要な精神的な姿勢についても書いてくれているので、本書があれば助かる人はたくさんいるだろう。

  といっても、本書は創作をしたい人、でなくとも、楽しめるところに魅力がある。

  たとえば、本書は魅力的でみんなから愛されるキャラクターを考える軸は、
・性格
・憧れ性
・共通性
にあると説く。

  性格が何を指すかはわかるとしても、憧れ性、共感性とは何だろうか? 憧れ性とは「観客・読者が登場人物に憧れを抱く面」のこと。反対に、共通性は、「観客・読者が感情移入するための必要な面」だという。どちらにせよ、登場人物の性格がベースにありながら、そこから抽出するのだという。

  つまり、ある性格があったら、そこから、「見ている人から憧れられるプラス面」と「見ている人から共感してもらうマイナス面」をどちらも用意することが必要、ということだろう。

  たしかに、キャラクターを見ていて、今このどちらが描かれているか、を考えてみるという視点はなかなかない。

  それはたとえば創作する側には興味なくとも、小説や漫画やドラマや映画が好きな人が、自分の好きな作品を分析する際に使える視点なのではないだろうか?
自分はなぜこのキャラクターが好きなのか。なぜこのキャラクターに惹かれるのか。それを考えるにあたって、本書が提示するような、キャラクターの構成要素に分けて考えてみる、という手法は有効だろう。

  そう、本書はフィクションの考察や感想をしっかり書きたい、という方にもおすすめしたい書籍なのである。

  フィクションがどうやって作られるのかを知ることは、フィクションがどうやって私たちをひきつけるのか、ということを知ることでもある。

  本書が描き出す、起承転結やシーンの構造、あるいは物語構造やキャラクターの描き方を知っているだけで「あ、この映画はこの手法を使っているのか」と理解することができるはずだ。

  そういう意味でも、本書は創作を楽しみたい人みんなにとって有益な本であることは間違いない。

  創作術の本は、たしかにたくさんある。

  しかし本書のように、網羅的に、そして簡潔に、創作術入門を語ってくれている書籍はなかなかない。決して具体例も難しい作品ではなく、簡潔に、とても分かりやすく手法を教えてくれている。そのことが、本書の読みやすさを担保している。
創作物そのものが好きな人全員に読んでほしい、「シナリオ・ライティングの基礎」を伝えてくれる本が、誕生したのだ。

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