倉田真由美が語る、太宰治のだめんず的な魅力 「作品に惚れられるし、太宰自身にも妄想を乗っけられる」

倉田真由美が語る、太宰治のだめんず的魅力

倉田真由美がもし『涼宮ハルヒ』を描いていたら……

――そう思うと、男性の二次元好きって、女性とはまったく違うと思いますね。

倉田:男性は『初音ミク』にしても、『涼宮ハルヒ』にしても、萌える対象のビジュアルが必要なのです。女性はビジュアルがなくてもいいの。吉川英治の『三国志』の文面から妄想を膨らませられるんだから(笑)。ビジュアルが無くても活字から自分でキャラのイメージをつくり、それに惚れることができるから、妄想がちになるわけです。女子の恋愛力が高いのは、イメトレの量が違うからじゃないかな。

――おっしゃることが凄くよくわかります。

倉田:『涼宮ハルヒ』だって、あのかわいい絵がなかったら、人気がぜんぜん違っていたと思いますよ。『エヴァンゲリオン』も、あの絵だから綾波レイの人気が出たんですよ。考えてみてください。倉田真由美がハルヒや綾波を描いていたら、絶対に流行らないから(笑)。あのかわいい絵だからこそ、良かったんですよ。

――ははは(笑)。くらたま先生が描いたハルヒ、ちょっと見てみたいですけれどね。

倉田:アニメの話で言うと、私は最初の息子が生まれた頃にちょっと恋愛から遠ざかっていたのですが、そのときにちょっとときめいたアニメがあるんです。『きかんしゃトーマス』のジェームズにはまったんですよ。

――ええっ!? あのジェームズですか(笑)!

倉田:息子と一緒に見ていたら、ジェームズってクールでかっこいいし、素敵じゃんと思ったの。でもね、冷静に考えたら、彼は“きかんしゃ”ですよ! だから、私は『おそ松さん』にハマる女性の気持ちもわかるの。あのビジュアルでも、妄想を乗っけられるのが女性です。私がきかんしゃで大丈夫なんだから(笑)!

――女性の妄想力の幅広さが実感できますね。

倉田:女の妄想力は凄いし、サブカル界は普遍的にそういうものがあるんだと思う。女は妄想を乗っけたらなんでもありだから、女性向けのやおい本の幅広さって、本当に凄いじゃない。

――今までのお話を聞いていると、太宰治的なだめんずがなぜ人気があるのか、わかる気がします。

倉田:妄想を乗っける女性が多いからこそ、太宰は女性人気も高い作家なのです。生き様にも共感するんだと思いますよ。椎名誠さんの文章を見ていると感じますが、小説家って固いことを書いているのに、ちょっと女好きで性的なところがチラッチラッと出ただけで、ときめくことができると思います。

作家に惚れるのは打算ではない

――太宰以外にもだめんずな作家はいますか?

倉田:そもそも、小説を書こうという人、絵を描こうという人はそういうだめんず的な気質があると思いますよ。大昔は小説家なんて職業、相当な道楽じゃないですか。作家本人がふわふわしているし、周りもそんな頼りない男大丈夫か、と言いたくなるような職業じゃん。

――確かに、様々な面でリスキーな職業ですよね。

倉田:だから、太宰を好きになる女性は、決して打算で好きになったわけではないよね。打算で選んだら、作家なんて好きにならないでしょう。子々孫々困らないで済むような、実業家や医者を選ぶと思う。打算じゃないからこそ、作家のファンって余計に性的感情も強いと思うよ。

――お金持ちだから恋愛するような相手ではないわけですね。

倉田:作家って、2世、3世に技術を渡せないでしょう。医者、弁護士、実業家は自分が築き上げたものを子孫に継承できるじゃないですか。でも、作家は無理。どんな英才教育をしても、子どもを確実に作家にするのは、まあ無理です。才能ばかりは教育でどうしようもない。漫画家もそうだけれど、一代きりでおわる可能性が高いので、ある意味、破滅的な職業だと思います。

――それでも太宰は当時からモテて、サブカル女子はいたと。

倉田:当時はアイドルが少なかったから、太宰にはもっともっと熱狂的なファンがいたと思うよ。昔から追っかけ女子はいたし、それこそ江戸時代や戦国時代には、家康、信長ファンだってたくさんいたと思います。当時、庶民は信長の名前を知っていても、お目にかかる機会なんてないわけじゃん。だから、どんな素敵なお方かな…… と、妄想していたんじゃないかな。

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