ラジオの生配信ドラマで話題の続編『あの夜であえたら』公開へ 脚本家・小御門優一郎と小説家・山本幸久が語る、作品の魅力

小御門優一郎、山本幸久対談

ーーラジオ局を舞台にしたことについて思うことはありますか?

小御門:やはりラジオファンの聖地であることを実感しました。使わせていただいた4階の第2スタジオというのは、普段オールナイトニッポンの第1部を放送しているスタジオです。火曜の深夜にはそこに星野源が座っているし、土曜の深夜にはオードリーの2人がいる。いつもそこから声だけが届けられている場所。そんな実際の現場で、ディレクターなどがどういうフォーメーションで放送しているかを、ビジュアライズして見せられたのは大きなことでした。

脚本や小説のことからラジオまで、二人の対談は、さまざまにテーマを変えながらも『あの夜であえたら』に対する真摯な思いを感じられるものとなった。

 本編のファーストシーンで、放送開始のタイトルコールがあってビタースイートサンバ(オールナイトニッポンのおなじみのテーマ曲)が流れますが、コアなファンからするとそれだけでよだれがでるようなことだったらしいんです。場所が持っている震源地・グラウンドゼロ感があって、そこから受け取れるパワーを吸い取った作品だと思います。

山本:深夜ラジオは好きでよく聞いていましたね。僕は大学生の頃にニッポン放送で、リスナーからの電話を受け取るバイトをしてたんです。狭い廊下に長テーブルをいくつも並べて、ファクシミリもない時代でしたから、電話を受けてメモ書きして渡していたのを今でも覚えています。

 だから今回のノベライズの話はとてもありがかったんです。話をもらったとき、ラジオの話だから書けるなと思いました。作家は基本的に一人で書くのですが、台本やキャラクター表などを見せてもらいながら意見を交わす経験は、刺激がありましたね。ニッポン放送に久しぶりに来られたことも、感慨深かったです。

ーーどのように執筆を進めましたか?

山本:脚本と映像を横目で見つつ、小説を書いていきました。一番感じたのは、脚本にも映像にも熱量があるということ。どう老体に鞭を打ってそれを書くかと考えたときに、中学や高校の頃に熱心に深夜ラジオを聞いていた感覚を思い出すようにしていて。映像で視聴者が引きずり回されて、なおかつ追いかけるようになる疾走感も、文章で表現することができたらと思いました。

小御門:演劇では舞台があって演者さんが出てきて、客席で観客が見ています。全員が同じ時間を過ごす中で「なんとかしなきゃ」というドタバタ劇になる。だから回想シーンはあまりなく、現在の時間だけで進行をしていきました。それが山本さんのノベライズを読むと、誰がどこでどうしていたかなど、改めて整理されるように感じました。

 演劇の脚本をリライトするだけだと、物語が何だったかという軸が通らない。そこで山本さんが出してくれたのが、松坂というリスナー代表の存在です。彼の少年期からのミニ半生を軸にすることによって、ドラマのように時間の順番通りに進めるくびきから解放されたように感じます。つまり、時間的には現在にいるのですが、思いを馳せるのは過去でもよくなった。松坂という存在によって、小説である意味が非常に出たように感じました。

ーー最後に改めてラジオの魅力とは?

小御門:現代のエンタメはVRなど五感をフル動員するものも出てきています。しかし、そのなかで音しかないという、メディアの不完全性があって、それを補完しようとするところに、孤独を癒す力や温かみがあるように感じます。誰もが孤独を感じやすい現代において、稀有なものだと改めて思いました。

山本:最近、ラジオと小説は根底は一緒ではないかとと思うんですね。なぜかというとどちらも今の自分の思いやさまざまな出来事を伝えるものですよねる。それに相手にどう伝えると面白く思ってもらえるかを考えるメディアです。

  ラジオで「パーソナリティがどう話すんだろう」と思いながら聞いてみると、計算立ててやっている人もいれば、計算しないでできる人もいる。今回小説を書かせていただいてから「導入ではこういう話の入り方をするのだな」などと考えるようになりました。きれいに作った話よりも、どこかパーソナリティの人間味が出た方がが面白くなってくる。そこは小説とも違ったラジオの強みであるし、ちょっと嫉妬するところだとも思っています。

生配信ドラマ『あの夜であえたら』公式サイト

https://event.1242.com/events/anoyoru2/

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる