ラジオの生配信ドラマで話題の続編『あの夜であえたら』公開へ 脚本家・小御門優一郎と小説家・山本幸久が語る、作品の魅力

小御門優一郎、山本幸久対談

 ラジオ局・ニッポン放送で2022年3月に異例の生配信をされたことでも話題となった生配信舞台演劇ドラマ『あの夜を覚えてる』。

生配信舞台演劇ドラマ『あの夜を覚えてる』。ラジオ好きの豪華なスタッフが集まり、ラジオという媒体を最大限に活用した同作品は大きな話題となった。

 オールナイトニッポン55周年企画として、生配信された同ドラマは、脚本・演出を小御門優一郎、主演を千葉雄大と髙橋ひかる、総合演出を佐久間宣行、主題歌「ばかまじめ」をCreepy Nuts×Ayase×幾田りらが担当するなど、各方面の第一線で活躍するラジオ好きが集まって生み出された作品だ。

 物語のあらすじは、ニッポン放送で新人ADとして働く植村杏奈(髙橋ひかる)は、オールナイトニッポンを担当している。その日の放送は、俳優・藤尾涼太(千葉雄大)がパーソナリティを務めて100回目という大きな節目を迎えていた。しかしそんなタイミングでありながら、週刊誌で藤尾が女性と深夜デートをした姿が報道されていた。彼は放送中に一体、どのように言及するのか。生放送の緊迫感のなか、事態はまったく予期せぬ方向に展開していくーー。

第2弾となる生配信ドラマ『あの夜であえたら』。第一弾同様に既に多くの注目を集めている作品だ。

 同作は優れたクリエイティブを表彰する日本最大級のアワード「2022 62nd ACC TOKYO CREATIVITY AWARDS」で受賞するなど大きな反響を呼び、第2弾の生配信ドラマ『あの夜であえたら』が10月14と15日に上演されることに。それに合わせての刊行でもある『あの夜を覚えてる』のノベライズ版は、著書『ある日、アヒルバス』『幸福トラベラー』などで知られ、ラジオを愛する小説家・山本幸久が執筆した。

 今回、脚本家・小御門優一郎と小説家・山本幸久の特別対談を実施。生配信ドラマと小説の形式の違い、そしてラジオの持つ魅力などを語り合った。(篠原諄也)

ーー小御門さんは生配信ドラマの脚本・演出を担当しましたが、今振り返るとどのような作品だったと思いますか?

脚本家の小御門優一郎氏

小御門:当初から反響がとても大きかったんです。なぜかと考えると、私たちノーミーツはもともと生配信で物語を届ける試みをやっていたんですが、それがラジオの生放送と構造的にリンクするところがあったからだと思います。ラジオリスナーのみなさんが普段ラジオを聴くがごとく、それぞれいろいろな場所から見ていただきました。

 特に印象に残っているのは、物語の最後に千葉雄大さん演じる藤尾涼太がリスナーからのメールを読むシーンがありますが、これは公演中に視聴者が投げてくれたメールをお渡ししているんです。深夜ラジオでもリスナーのメールによって、番組が思わぬ方向に進むことがありますよね。そうしたインタラクティブ性を疑似的に再現できたと思います。

 物語上すごく大事なラストシーンなのに、それを視聴者・リスナーを信用して任せるというアチチュードを示せたことが、反響の大きさや熱量に結びついたと分析しています。でも俳優さんからしたら、その場のアドリブでリアクションをしないといけないので大変だったはずです。そこは千葉さんをはじめ、演者さんやスタッフにもラジオ好きな方が多かったこともあって、従来は難しいことも実現できました。

ーーそうした舞台裏は、まさに作品内容と連動してるように感じます。作中ではラジオ生放送中のドタバタ劇が描かれますね。

小御門:演じている役者さんだけでなく、裏方を含めて全体で熱量が高くなっていました。みんなで生配信が無事終わるように必死に進めていましたが、それは作中のキャラクターたちと同様ですね。作中ではただ無事に終わらせるだけでいいのだろうか、いい番組にするには何をするべきかと葛藤します。続編から参加する俳優の中島歩さんは、前作を「文化祭みたい」と評されていて、言い得て妙だと思いました。前日からニッポン放送にいろんな配信機材を運び込んで急いで準備をしたのは、まさに文化祭のようでした。

小説家の山本幸久氏

山本:ドラマはとても面白かったです。映画やテレビともまた違う、ラジオ本来の面白みをきちんと映像化ができていると思いました。最初のうちはカメラの動きに連れて行かれて、別の部屋に移動したりするので、見ているこっちが引きずり回されているような感じでした。いきなり作品世界に飛び込まされて、びっくりした人も多かったでしょう。でも見ているうちに、こちらから追いかけ出すんですね。映像を見ていて感じたのは「疾走感」という表現が一番近いかもしれません。

小御門:カメラの動きは半分は意図したようで、半分は意図していないというか。生配信で予算も多いわけではなかったので、切り替えをせずにひとつづきで繋げ
ざるをえなかったんですね。でもそうした現場の時間がないドタバタした感じがあって、映像に疾走感が出たのかもしれません。キャストもスタッフもずっと腰を浮かして動いていました。

 普通、動画配信サイトで映画を見るようなとき、その作品が無事エンドロールにまでたどり着くことは保証されていますよね。でも生配信は無事に終わるかわからず、まったく別の視聴体験です。コンサートや演劇の観賞中に「もし今、私が大きな声を出したら、この空間は台無しになる」と思った経験ってあったりしませんか。ライブエンタメはそうした脆さを楽しむところがあって、配信ではそういう雰囲気が出ていたと思います。

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