大ベストセラー42年ぶりの続編『続 窓ぎわのトットちゃん』はどんな内容か? 黒柳徹子が伝える現代へのメッセージ

『続 窓ぎわのトッとちゃん』を読む

 東京へ帰ったトットちゃんが教会の副牧師に恋をしたり、東洋音楽学校に入ってオペラ歌手を目指したりといったエピソードからは、戦争が終わって平和になった社会のありがたさを改めて感じさせられる。演技の経験もないままにNHK放送劇団を受験して、テレビという新しいメディアが求める無色透明な人材だから合格したというエピソードには、変化する時代にうまく乗った幸運さがうかがえる。

 もっとも、そうした道をトットちゃんは誰かに強制された訳ではなく、時には父親が反対するかもしれないからと黙ったままで選び突破してきた。ヘンな日本語と言われながらも文学座の女優と並んで『ヤン坊ニン坊トン坊』の役を獲得し、劇作家の飯沢匡から個性的だと褒められたエピソードからは、自分ならではの持ち味を持つ大切さも学べる。こうした放送界での話は、1984年刊の『トットチャンネル』(2016年『新版 トットチャンネル』刊)に詳しいので、合わせて読むと良いだろう。

 ただ、「兄ちゃん」と呼んで慕うようになった渥美清とのエピソードは、2015年刊の『トットひとり』などで綴られているが、改めて読んでも心に響く。初対面からしばらく経って、打ち合わせに臨んだ時に、渥美清が椅子から立ち上がって「なんだこのアマ!」と言ったという。きっと苦労知らずに見えたのだろう。浅草の芝居小屋とは違うNHKの雰囲気に慣れておらず、苛立っていたのかもしれない。

 そんな渥美清にトットちゃんは大好きな一冊の本を買って渡したという。それがサン=テグジュペリの『星の王子さま』。その時にトットちゃんが添えた言葉は、何かに苛立っている人がいたら感銘を受けるだろう。そして『星の王子さま』を読んでみたくなるはずだ。

 打ち解けるようになった渥美清が、トットちゃんに喋った言葉が本当に目の前で渥美清が喋っているようで、「男はつらいよ」シリーズの寅さんでしか渥美清を知らない人に、その役者魂を聞かせてくれているようにもとれる。そうした出会いがあり、離別も経た先で今、トットちゃんが何を考えているかは「あとがき」から感じ取れる。それはやはり、戦争のことだ。

 「『徹子の部屋』で、私は俳優さんたちに片っぱしから戦争の話を聞いた。いま聞いておかないと、戦時中の俳優さんにどんなことがあったかが、忘れられてしまうと思ったからだ」。大好きだったトモエ学園を離れるきっかけにもなった戦争でいったい何があったのか。それをテレビ番組で記録していく活動をしてきた延長で、自らの体験を書き残しておきたいと考えたことが、『続 窓ぎわのトットちゃん』の執筆動機だったという。

 そして綴る。タモリが日本の2023年は「新しい戦前になるんじゃないですかね」と言った言葉に、「そんなタモリさんの予想が、これからもずっとはずれ続けることを祈りたい」。

 祈りは届くか?

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