ヤングケアラーたちは東日本大震災とどう向き合ったのかーー重い問題を直視する『藍色時刻の君たちは』

『藍色時刻の君たちは』レビュー

 私たちの社会は、常に無数の問題を抱えている。その中には、目を背けたくなるほど、辛く厳しいものがある。しかし、目を背けていたら何も解決しない。そんなときに有用なのが物語だ。物語――すなわちフィクションというフィルターを通すことにより、重い問題が受け止めやすくなるのである。もちろん創り上げられた物語が優れていればこそ、問題を直視することができる。そう、前川ほまれの小説のように。

 前川ほまれは、第七回ポプラ社小説新人賞を受賞した『跡を消す 特殊清掃専門会社デッドモーニング』(ポプラ社)で、訳ありの死に方をした人の部屋を片付ける、特殊清掃員を主人公にした。以後、『シークレット・ペイン ―夜去医療刑務所・南病舎―』(ポプラ社)では医療刑務所を舞台にし、『セゾン・サンカンシオン』(ポプラ社)では依存症と親子の関係を取り上げた。デビュー作から一貫して、現実の問題に挑んでいるのである。そんな作者の新作『藍色時刻の君たちは』(東京創元社)は、ヤングケアラーをテーマとしている。

 こども家庭庁のホームページを見ると、ヤングケアラーを〝本来大人が担うと想定されている家事や家族の世話などを日時陽的に行っているこどものこと〟と書かれている。2010年から始まる、本書に登場する三人の高校生は、まさにヤングケアラーだ。

 一人目は、織月小羽。統合失調症の母親と、石材店に勤める祖父との三人暮らし。母親と離婚した父親は、再婚して東京で暮らしている。祖父が家事を手伝わないため、家庭のことや母親の面倒は、小羽が一人で見ている。さらに祖父が、脳溢血で入院。このことが切っかけになり、飲食店でバイトしている浅倉青葉という女性と知り合う。しかし青葉には、恋人を毒殺したという噂があった。

 二人目は、松永航平。母親は病気で死亡。父親は仕事があり、躁状態とうつ状態を繰り返す祖母の面倒を見ている。三人目は、住田凛子。母親がアルコール依存症であり、保育園に通う弟の雄大の面倒を見ている。また、小羽に恋心を抱いている。

 三人は、同じ学校に通う高校二年生だ。それぞれの事情が似通っていることから仲がいい。とはいえ抱える問題は、あくまで自分だけのものだと思っている。作者は、三人の状況を克明に描きながら、やりきれない現実を巧みに表現していく。看護師の傍ら小説を書き始めたという経歴の持ち主である作者だけに、病気や介護に関する部分はリアルだ。だから、青春時代の喜びは少なく、未来の選択肢も狭まっている三人の日常に引きずり込まれた。

 一方で、青葉の存在も気になる。小羽との出会いを経て、航平と凛子の人生にも絡むようになった青葉。視野狭窄になっている若者たちに、別の生き方もあることを示唆するのである。そんな彼女だが、断片的に情報が提示されることで、過去が気になってならない。

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