小説家 清水晴木 × ドラマ脚本家 水橋文美江『さよならの向う側』対談 小説とドラマ、それぞれの魅力

『さよならの向う側』対談

命と向き合って書いてみようと思った

清水晴木氏と対談する水橋文美江氏(手前)

――ドラマの中では、キャラクター設定などが原作から少しアレンジされている部分もありました。中でも第2話「放蕩息子」は大胆なアレンジがされていて、原作では主人公の息子が漆職人の父親に会いに行くというストーリーでしたが、ドラマでは俳優を志していたという設定が加わり、認知症の父親に祖父のフリをして再会する話へと変わっています。

水橋:本当は全部原作のままドラマにしたかったんです。でも漆塗りってすごく繊細な作業なので、作業場に埃が立ってはいけないからカメラが入れないんですよ。それだったら中途半端に作るよりは、少し残念だけどガラッと変えてしまおうということになり、最大限あの設定が生きるように息子の職業も変えざるを得なかった……というのが裏話ですね。だからこの話もぜひ原作を読んでみてほしいです。そして漆にも興味を持ってもらえればと思います。

清水:僕、実はドラマの中で2話が一番好きなんです。確かに原作から一番変わった話だと思うんですけど、それでも一番好きです。息子が役者という職業ならではのスキルを活かしてお父さんに思いを伝えるというラストで、「これはやられたな」と思いました(笑)。この展開は、映像で伝えられるドラマならではですよね。最初に脚本を読んだときは、息子が祖父のフリをするという部分がちょっと難しくてなかなか頭に入ってこなかったんですけど、映像になった時に「あ、最高だな」と。

水橋:映像の制約と時間の厳しさはありましたけど、いい話になって良かったです。

第2話「放蕩息子」より

――水橋さんはどのエピソードが気に入っていますか? 

水橋:私は4話「長い間」の途中に出てくる猫が飼い主と再会するエピソードですね(原作では第3話「わがままなあなた」として収録)。あの設定は、逆に小説ならではの面白さだと思うので、映像化がすごく難しかった印象です。あと全体を通して案内人のキャラクターがすごく好きなんです。案内人っていう立ち位置って、図々しいキャラクターにもなりえるじゃないですか。でもこの案内人はすごく良い距離感だと思います。さりげなくて品が良くて、押しつけがましくないですよね。

第4話「長い間」より

清水:案内人のキャラは、実はかなり悩みました。最初はもう少しドジを踏むキャラにしてみたり、編集の方からアドバイスをもらってもっとグイグイ攻めるキャラを考えてみたり、試行錯誤したんです。ドラマの3話「サヨナラの向う側」(原作では第4話に収録)に、生き急ぐような性格の神楽美咲という女の子が出てきますが、彼女とは対照的に“ゆっくり生きることを大切にしている”というキャラクターに最終的に行きつきました。多分亡くなった後に待っていてほしい人って、なんでも広く受け入れてくれるような、こういう人なのかなと思って。

水橋:確かにそうですね。でもちょっとユーモアもあって人間味が感じられるところもいいですよね。

清水:やろうと思えばどこまででも悲しく切なくできる物語なので、ユーモアの要素は必ず入れたいと思ってたんです。案内人のキャラクターに少しツッコミどころを持たせることで、悲しいだけじゃない作品になったかなと思います。

2作目『さよならの向う側 i love you』

――『さよならの向う側』には年齢も性別も種族も多様な人々が出てきます。多様なキャラクターを描く上で、どんなことを意識していますか?

清水:僕は実体験から思い浮かべて作った部分が多いです。1話に出てくる主人公の息子の口癖「だいじょうぶ」は子どものころの僕自身の口癖ですし、先ほどお話した2話には父親の実体験を混ぜています。僕が小学生だったとき、祖父の告別式で父親が「昔、飛行機の模型が欲しかったけど買ってもらえなかったときに、町工場で働いていたおじいちゃんが手作りしてくれたんだ」と教えてくれて。それにすごく感動して今でも覚えていて、作品に書きました。心臓に持病を抱える神楽美咲は、僕自身が12年前白血病になって骨髄移植した経験を元に作りました。その頃が一番命に向き合った時間でしたね。

水橋:そうだったんですね。でもそういった体験をエンターテインメントに昇華していることは素晴らしいですよね。

清水:“自分が死んだことを知らない人にしか会えない”というルールも、エンターテインメントにすることに必要だったと思います。あの設定が思いついたときに、「あ、作品として書けるな」と思いました。キャラクターの感情の描き方という点で言うと、実体験と結びついているからこそ感情移入できているのかなと思いますね。僕はこの作品まであまりヒットに恵まれなくて、そろそろ小説家も辞めなきゃいけないかなっていうときに、最後にちゃんと命と向き合って書いてみようと思ったのがこの作品なんです。亡くなってしまった方のことを考えたり、もしも自分が亡くなった時にどうしたいか、という想像をしていたので、だからこそそれぞれのキャラクターに寄り添って書けたのかなと。水橋さんはどうですか?

水橋:私の場合は、実体験というよりも色々な方と出会ってそこからヒントをもらうことが多いですね。でも自分の欠片みたいなものはきっと無意識に出ていると思います。あとは、「こんな面白いドラマが観たいな」と思う気持ちって、普通の日常生活を送る中で湧いてくると思うんです。だから観る側の気持ちを割と大切にしてきました。私たちが本を読んだりドラマを観たりして感動できるのは、普段の日常があるからだと思うので、生活の中で生まれてくるものを大事にしたいと思っています。

――最新作の『さよならの向う側 Time To Say Goodbye』では、SNSで出会った2人のエピソードが入っているのが印象的でした。

清水:最近はSNSで知り合った人に会いに行くことは割と普通になっているし、死んだことを知らない人ってまさにSNSで繋がっている人だろうなって思ったんです。一番会いに行ける相手だからこそ、そこは作品として書いておきたいと思っていました。その中で、アカウントからイメージした人物像と実際の相手が全く違ったというのもSNSあるあるだと思うので、そこを叙述トリック的に入れています。

――今の時代感を作品に反映するという点を意識されている部分もあるのでしょうか。

清水:僕はまさに今を感じられるものを取り入れるのが好きで、固有名詞もかなり入れてますね。たとえば“藤井四段”とか。そういったワードを入れることで、遠い世界の話じゃなくて自分の身近な話だと読者の方に感じてほしいですし、逆に10年後とかに読んでくれた方には「これはちょっと昔の話なんだな」って思ってもらいたいなと。あとは、時代をあえてずらすことで小説の中のトリックに使う部分もあるので、そういった意味では時代感というのはかなり意識していますね。

水橋:私も新作を読ませていただきましたが、このシリーズは主人公がどんどん変わっているようで実は繋がっている面白さがありますよね。

清水:これを機に、1巻から一気読みしてくれている方もいるみたいで嬉しいですね。実はこのシリーズ自体が繋がりをテーマにした作品なので、ぜひ最初から通して読んでもらえると良いかなと思います。

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