『ガンダムZZ』でファ・ユイリィが背負った『Z』の悲しみと混乱 今になってわかる“口うるささ”の意味を考察

『ガンダムZZ』第十話レビュー

 多くのファンを抱える『機動戦士ガンダム』シリーズにおいて、何かと不遇な『ガンダムZZ』。はたして本当に“見なくていい”作品なのか? 令和のいま、ミリタリー作品に詳しくプラモデルも愛好するライターのしげるが、一話ごとにじっくりレビューしていく。

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【連載第一回】第一話から「総集編」の不穏な幕開け
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第十話 さよならファ

[あらすじ]
 アーガマはラビアンローズとの合流、そして新型機の受領を控えていた。一方、ファはシャングリラに残したカミーユに思いを馳せつつ、ジュドーらシャングリラからの合流組に手を焼いていた。

 ルー・ルカが新型機受領のためにラビアンローズへ向かう一方、ビーチャとモンドはアーガマを売り渡すため、エンドラに向けて電波の発信を試みる。そのエンドラには、マシュマーの相次ぐ失敗を受け監視役としてキャラ・スーンが派遣されていた。キャラにおちょくられつつも、電波の発信源と接触するため、マシュマーはゴットンをアーガマ艦内に侵入させることを決定する。

 アーガマでは、相変わらずファがジュドーらの監督に苦戦していた。その最中、姿を現さないビーチャとモンドを不審に思ったエルは2人の行動を問いただそうとする。しかしちょうどその時、ゴットンが中に入ったダミー隕石を抱え、マシュマーたちのモビルスーツ隊が襲来。アーガマはダミー隕石を投入しつつ、ジュドーが乗ったZガンダムを出撃させる。しかし、Zガンダムのビームライフルはプラグがつながっていないせいで発砲できず、思わぬトラブルにジュドーは慌てる。

 窮地のジュドーを助けるべく、ファはメタスで出撃する。一方でゴットンはアーガマに到着。艦内に侵入を開始する。Zガンダムと合流したファはビームライフルのプラグを接続しようとするが、そこをマシュマーのハンマ・ハンマが襲撃。ファからハンマ・ハンマを引き離すべく、丸腰のZガンダムでジュドーは奮戦する。

 ギリギリのところでファはビームライフルを修理し、Zガンダムに引き渡す。ビームライフルを取り戻したジュドーだったが、そこにハンマ・ハンマが襲い掛かり、ファのメタスは戦闘不能のまま宇宙へと流されてしまう。ジュドーは戦闘後に救出することをファに約束しつつ、アーガマのためにエンドラのモビルスーツ部隊と渡り合う。

 激戦の中、ルーが大型のコアファイターに乗って援護に回り、エンドラの部隊を急襲。援護が来たことを悟ったマシュマーは、全滅を避けるため帰投を決断する。

 アーガマの艦内では、ゴットンが協力者と勘違いしてイーノと接触。イーノが大声を上げたところでエルや子供達によってゴットンは捕まり、ブライトらの前に引き出される。そこでゴットンは、アーガマ内のネオ・ジオンとの内通者の存在を仄めかすのだった。

 半壊したメタスで宇宙に放り出されたファは、サイド1へと漂っていた。ブライトはファを回収せず、サイド1に任せることにする。一方メタスの中では、ファがアーガマへの別れを告げつつ、サイド1へと帰ることを決意していたのだった。

 第一話から戦力不足のアーガマを支え続けてきたファが、ここで一旦表舞台を去る。エキセントリックな登場人物が多い『Z』や『ZZ』だが、思えばファは「普通の人」の代表格のような存在だったように思う。

 『Z』でカミーユを案じる気持ちからパイロットへ志願したファ。その後は補欠的な扱いでメタスに登場しつつ、物語においてしばしば重要な役割を果たしていた。また、『ZZ』においてはカミーユを心配する気持ちとアーガマのクルーとして役割を果たさねばならないという義務感で板挟みになり、それがエルに「しゅうとババア」と呼ばれるほどのピリピリした態度となって現れていた。

 しかし、そもそもファは10代の少女である。年齢だけで言えば途中からアーガマに乗り込んだシャングリラコロニーの子供たちとそう大差はないわけで、にも関わらず言動にあれだけの厳しさがあったことには、改めて驚いてしまう。普通の10代の少女が戦闘の緊張状態に置かれれば言動はピリピリして当たり前で、ヘラヘラしているジュドーたちの方が変なのだ。そんな、「普通の人」の当たり前の言動が当たり前に出るというキャラクターが、ファ・ユイリィだった。

 また、ともすればコメディタッチな部分が目立っている『ZZ』の前半だが、このファの立ち位置や描き分けに関して言えば、「戦争がいかに人間を変化させるか」という点に対して自覚的だったように思う。ついこの間までジャンク屋をやっていて、ガンダムに乗るのもノリと勢い任せ、タダ飯が食えればそれでいいというジュドーたちと、同年代ながら歴戦のクルーに成長しているファの立ち位置や言動は必然的に大きく異なる。ファは、戦場でどうすれば生き延びられるのか、戦いで人が死ぬというのはどういうことかを身をもって知っている。その知見の重みが、口うるささとして表現されていたわけである。

 戦場での死に対して実感がないからこそ、ジュドーたちの言動は妙に軽い。しかし、『ZZ』の物語が進むにつれて、そのままではいられなくなることを我々視聴者は知っている。そうなった時に初めて、ファの口うるさい言動はジュドーたちの中に意味を持って立ち上がってくる。

 もうすでに30代も半ばを過ぎた自分の立場からすると、10代にしてそれだけ重みのある経験を背負ってしまったファという少女の不憫さが際立って感じられて、なかなか悲しい。ファが戦いを生き延び、ひとまずカミーユのそばに戻ることができるということが、唯一の救いであるように思う。

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