オノマトペの専門家が解き明かす、AIにも負けない人間の情報処理システムの面白さ

オノマトペからわかる言語の成り立ち

 ここで著者は「アイコンの輪」仮説を提唱する。音をそのまま言葉にしたオノマトペですべての物や事象を表現するとなると、膨大な量のことばが必要になってしまう。そこで一つのことばで表現できるようにシステム化=体系化を図りながら、語彙は整理され形を変えていく。「よろよろ→よろける」「ざわざわ→さわぐ」のように、オノマトペは一般動詞化されることでアイコン性は薄まる。だが、「この概念にはこのことば」という感覚が共有されると、「混む→ゴミゴミ」のようなオノマトペではないがアイコン性の強いことばの生まれるケースもある。このサイクルを経て言語の習得・進化がなされてきたことを、英語における語彙の変化の歴史や奈良時代の『万葉集』などを例にとり実証していく。

 著者ふたりの言語に対する尽きぬ関心と、そこから生まれるユニークな推論。この2つが本書において読者を惹きつける大きな魅力となっている。人間だけがことばの意味を感覚的・身体的に理解して知識を拡大できる理由、ヒト以外の動物が言語を学習しない(できない)理由など、気になるトピックはまだまだ出てくる。そこに著者は仮説を立てて考察を進め、知見を得てはまた新たな問いを設定して、言語の本質を考えていく。そんな本書の構成は、普段何気なく使っている言語が、いかに複雑で謎に満ちているのかを教えてくれてもいるのだ。

 野球のバッティングだって、考え出したらキリがないぐらいに複雑なはず。それを「スーッと来た球をガーンと打つ」と感覚的に一言で表せてしまうのは、聞き手が理解できたのかはともかく、長嶋茂雄の天才ぶりを象徴するエピソードなのではないか? スーッはどんな球種を、ガーンはフルスイングとコンパクトなスイング、どちらを表しているのだろう? という具合に、本書を読んだ後は著者のように、言語に対する関心が尽きなくなっているはずである。

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