短歌の未来を拓く、新時代の歌人・伊藤紺「短歌との出合いが自分をクリアにしてくれた」

短歌の未来を拓く、新時代の歌人

作歌をはじめて3カ月でZINEを制作

――本格的に、歌人として活動していこうと決意されたのはいつ頃だったんですか?

伊藤:「歌人になろう」と決意したことは一度もないです。そもそも「歌人」になることに明確な基準があるわけではないので……。短歌を続けているうちに、いつの間にか自分を歌人と呼ぶことに気後れがなくなっていた、くらいの感じです。

――なるほど。初期の反響はいかがでしたか?

伊藤:SNSに投稿しはじめてすぐ、歌人の枡野浩一さんが「いいね」をくださるようになってびっくりしました。それから、どんどん新しい歌を詠みたくなって、1日に何首もつくっていました。

――SNS上で短歌を発表される一方で、2019年に私家版歌集を刊行される前にも、数冊のZINEをつくられていますよね。

伊藤:はじめてZINEをつくろうと思ったのは、短歌を詠みはじめて3カ月目くらいの頃だったと思います。いわゆる歌集をつくるという発想はまだなかったので、イラストと短歌の本をつくろうと、イラストレーターのeryに私から話を持ちかけました。バンドをやっていると、“曲ができたら音源をつくる”のが普通だったので、ZINEをつくるのも自然な流れでした。

――どんなことにこだわってつくられたのでしょうか。

伊藤:つくるからには本屋さんに置いてもらいたかったし、置いてもらうために多少は売れなくてはいけないと思っていたので、当時なりの考え方で一生懸命つくった記憶があります。今見返すと未熟で恥ずかしい部分も多いですが、夢中になれることを見つけて楽しかったですね。

自分のための細い道を切り拓いていく

――改めて、歌人として活動されている今をどう捉えていらっしゃいますか?

伊藤:まず、短歌と出合えて良かったなと思います。こんなにずっと夢中になれることがあって、本当にうれしいです。そしてそういうものと出合えたらから、自分のことを悶々と考えすぎなくてよくなったことも大きいです。そうやって自分がクリアになり、やっと高校時代みたいに堂々と振る舞えるようになってきました。

 でも逆に言えば、短歌しかなかった。ほんの数年前までは作家で食べていくつもりなんてなくて、何か言葉で手に職をつけたいと、ずっと思っていたんですけど、長文を書いていても楽しくないし、やっぱりあんまり向いていないんですよね。

 歌人って職業じゃないし、稼ぐ道があるわけではないので、かっこいい意味では全くなく、新時代の歌人として、自分のための細い道を切り拓いていく以外に道がないのかも……というか、その他のことは何もできないのかも……(笑)と、ようやく腹を括れたところなんです。

――ふとした出合いではあったものの、それをご自身の才能と結ばれたのは、自ら作歌をはじめ発信された伊藤さんの行動にあると思います。

伊藤:「自分はすごい」という思い込みが、良い方向に作用して良かったです(笑)。でも、若いときってそういうふうに思うことが多いですよね。根拠のない自信とそれゆえの不安みたいな……。

 人にアドバイスできる立場ではないですけど、個人的にはいろいろやってみたから短歌と出合えたので、いろいろやってみるのって意外といいんじゃないかなって思います。才能があれば伸びるし、ない気がしても楽しかったら好きなだけ続けたらいいし、飽きたらやめればいいし。私もまさか短歌を続けるなんて思っていなかったので、本当にやってみないとわからないものだなあと思います。

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