杉江松恋の新鋭作家ハンティング 言葉が奏でる調べに酔う、若竹千佐子『かっかどるどるぅ』
若竹のデビュー作は2017年に発表した『おらおらでひとりいぐも』(河出文庫)で、同作で第158回芥川賞を受賞した。女性の一人称で綴られる作品で、人生の玄冬に入った者にも、いまだ盛んな生命の炎が宿っていることを描いた。同じような語りで読ませる小説だが、第二作では複数の声が響いていることが大きな違いである。慎重に視点人物と作者が距離をとっていた前作に比べると、本作には直截的な部分がある。作者の意見がそのまま出ていると感じる読者もいるのではないだろうか。おそらくそれは、2020年代に入ってますます顕著になった社会の分断化、手を取り合おうと発言することを人に躊躇わせる空気のためであろう。素直な意見を素直に口にすることがなぜできないのか。そうした思いが作者の念頭にあり、あえてすべてをさらけ出すという選択をしたのではないかと私は考える。まっすぐに、心のままに生きることを怖れるな。そうした声を確かにこの小説から聞き取った。
かっかどるどるどぅとは、鶏の鳴き声のドイツ語版である。世の中に鶏鳴を。夜明けを。そうした思いで書かれた小説だろう。