『あなたがしてくれなくても』が突きつける“結婚観の歪み” 原作漫画と異なる設定が問うもの

『あなたがしてくれなくても』レビュー

 ちなみに、本作の中で設定が最も大きく変わっているのは、陽一だ。原作では会社員で、先輩の女性となし崩し的にぬるりと浮気する設定だったが、ドラマではカフェ店長という、より自由で縛りのない職業で、浮気相手も、正直で飾らない親しみやすさと無防備さのある年下のバイト女性(さとうほなみ)に変わっている。

 ドラマの中で非常に印象的だったのは、浮気を告白してから家に帰って来なくなったみちに会うため、会社に突然陽一が訪ねて来るシーン。そのまま会社に行こうとして、受付をするよう止められ、対応してくれたみちの後輩・華(武田玲奈)に挨拶も返せず、伝言を聞かれても「ないです」の一言。これではまるでお母さんに会いに来た小学生の息子だ。

 傍から見ると、30代のおこちゃま男に呆れるばかりだが、みちは「何も言わない、何も言えない人」が「ここまで会いに来た」という事実に対し、嬉しくなり、帰宅を決意する。夫婦というのは不思議なものだ。

 そもそも、それぞれの人物の行動原理が理解でき、「だったら仕方ない」「それを選んだのは自分自身」という自己責任論で片付けてしまっては、夫婦なんて成立しないのかもしれない。

 そう思うと、本作の登場人物の言動やSNSの反応に抱く違和感は、そのまま自分自身の夫婦観・結婚観の歪みや、人としての未熟さ、身勝手さ、傲慢さとイコールにも思えてくる。『あなたがしてくれなくても』は、もしかしたら自分自身のアンモラルかつ非常識さ、狭量さ、不寛容さを試される、気づかされる、自身の心の鏡のような作品かもしれない。

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