【LINEマンガ】「当初のコンセプトは教室での回し読み」森啓取締役COOが語る 「ユーザー視点で徹底的に改善を進めた10年間」

LINEマンガ特集

 LINEマンガは2023年4月で10周年を迎えた。現在では漫画が読めるサービスは数多くあるがその中でもLINEマンガは、グローバルでの月間利用者数8,900万、累計ダウンロード数2億超、ひと月の流通額が100億円を超える、同市場で圧倒的世界1位の規模を誇るプラットフォームサービスの連合体 “WEBTOON Worldwide Service”の一員として日本市場で展開しており、現在では国内マンガアプリ累計ダウンロード数で1位を記録するなど成長を続けている。

森啓取締役COO。2013年4月にサービスの提供を開始したLINEマンガ。翌年の2014年7月 には連載形式で無料閲覧できる「無料連載」をスタートと、ユーザーフレンドリーな施策を次々と打ち出してきた。

 今回LINEマンガ10周年を機に、同サービスをローンチ前から関わってきた、森啓取締役COOにインタビューを行った。LINEマンガの10年の歩みを総括するとともに、注目の作品や今後のビジョンについても語っていただいた。

■人々の生活にとって普遍的なものになるか

――LINEマンガが誕生してから10年が経ちました。漫画業界全体にとって紙媒体に依存しないシフトが行われてきた激動の時代だったと思います。森さんはその中で現場を見られてきた中で、どう総括されますか。

森:LINEマンガを始めた頃の話ですが、当時LINEが新たな事業に参入するとき、その分野が人々の生活にとって普遍的なものであるか、という点を重視していました。その観点で、漫画はwebtoonも含め、この先もずっと人々の生活に欠かせない普遍的なものだとだと判断し、2013年にLINEマンガが始まりました。当時は電子書籍市場がまだ1000億円に満たないような時代でしたが、スマートフォンが普及しはじめたこと、各出版社がフューチャーフォン時代から電子書籍の整備を進めてこられていたことなど、様々な要因が揃った非常に良いタイミングだったと思います。

 そのなかで、この10年間で漫画の流通は大きく変わっていきました。当初は紙の単行本を電子書籍にして販売するという形から始まり、紙と電子の同時販売(サイマル)をする作品が主流になっていき、ユーザーが作品を選びやすいような施策も、「試し読み増量」から始まり「1巻無料」「複数巻無料」など様々な手法に変化していきました。LINEマンガはLINEを活用していますので、単行本の最新刊を発売日に、無料キャンペーンを即時に、といったリアルタイムで情報を届けるということを強みとしていました。

 その中でターニングポイントと言えるのが2014年にスタートした「無料連載」です。それまで単行本の発売に合わせたプロモーションが主流だったのですが、「無料連載」によって、気軽に作品と触れ合う場が一気に広がりました。毎日無料で次の話が読める、という仕組みを作ることで、より多くの作品が多くのユーザーに読まれる好循環が生まれ、単行本の新刊がでていない時でもオフラインの書店で作品を探すユーザーが現れるなど、オンラインのみならず、オフラインの流通にも影響を及ぼしました。

■「少年」「少女」といった漫画の垣根がなくなる

ーースマートフォンの時代になり、LINEマンガのような漫画アプリが普及したことで紙の雑誌から作品単位として分解され、より多様な作品に触れられるようになったという実感があります。

森:そうですね。オフラインの時代には単行本だったり雑誌だったりーーもちろんそれは漫画文化にとって今でも重要な存在なのですが、どうしても「少年漫画」「少女漫画」のように、コーナーが明確に分かれていました。それがアプリベースになってあらゆる作品にタッチポイントができ、男性が少女漫画を読むことも珍しくなくなった。日常的に読者が本当に好きな作品を楽しめる環境ができたことが、この10年間で大きく変わった部分だと思います。

■徹底的にユーザーの声を聞いて改善を進めてきた10年間

ーー現在では多くの漫画アプリが登場していますが、そのなかでもLINEマンガは高いシェアを維持し続けています。ユーザーフレンドリーなインターフェースも含め、LINEマンガが開拓してきた部分も大きいですね。

森:使いやすいUIというのは、まさに追求してきたポイントです。例えば、LINEマンガが始まった2013年は、アプリ内課金で漫画が買えるサービスはほとんどありませんでした。プラットフォームの手数料の問題が大きかったのですが、デジタルで読むには、ウェブで別途購入して、アプリをビューワーとして使う……という感じでした。ユーザーとしては、スマホでアプリを開いて、そこで漫画を購入してそのまま読めたら便利ですよね。いまでは当たり前のことになりましたが、このようにシンプルなUIで漫画を楽しめるように、ということを心がけてきました。普遍的な価値を判断し、誰がも使いやすいサービスを最速で提供し、リリース後は徹底的にユーザーの声を聞き、データを分析し、改善を進めるということを10年間繰り返しており、UIについて良い評価をいただけるようになってきたのかなと思います。

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■無料連載作品が紙の単行本で売れることも

ーー単行本や雑誌など、紙のメディアと競合するようなイメージもありますが、実際には相乗的に漫画文化を盛り上げている部分が大きいと思います。

森:そうなるようにと考えています。面白いのは、先ほどの流通の変化でも触れましたが、LINEマンガで無料連載をしていた作品は、紙の単行本も売れていたそうです。書店で陳列していない旧作が急に売れるようになり、調べてみたところ、LINEマンガで無料連載が始まった作品だった、という事例が多くありました。これはいまもそうだと思うのですが、デジタルから入って、最終的には紙で読む、という方も多く存在しています。電子書籍ストアは自社の企業努力だけでは運営できませんので、今後も出版社とよい関係を築きながら、サービスを発展させていきたいですね。

――例えば、集英社の作品で、LINEマンガで連載された『氷の城壁』(阿賀沢紅茶)のような人気作もあります。出版社との協業は今後も進んでいきそうですか?

2015年2月にはマンガ投稿機能「インディーズ」をスタート。誰でもオリジナル作品を投稿し、公開することが 可能となった。2020年にはマンガ家応援プロジェクトを開始するなど、クリエイターへの支援も早くから行ってきた。

森:そうですね。LINEマンガは「作品の発表の場」としての側面も年々高まっており、出版社様から新作を出していただくという動きが非常に増えています。特に、タテ読み&フルカラーの「webtoon(ウェブトゥーン)」に関しては、われわれがサポートしながら作品をつくっていただくということも、どんどん増えていて。国内におけるLINEマンガのプラットフォームとしての影響力も評価していただいていると思いますが、その先のグローバル展開も踏まえての取り組みという面がありますし、今後さらに多くの企業さんと密に協力していけたら大変ありがたいですね。

■LINEマンガではwebtoonの多様な作品を豊富に揃えている

――「webtoon」のお話も出ましたが、いまは関連のニュースを見ない日がないほどで、国内の市場も急成長を続けています。縦スクロール作品に特化した制作スタジオや掲載プラットフォームも増加していますが、シーンをリードしてきたLINEマンガとして、現状をどう捉えていますか。

森:webtoonはスマートフォンでの閲覧に最適化した新しい表現形式ですが、昨年あたりから日本国内の多くのスタジオがチャレンジをされており、今年はそのアウトプットが花開いてきているという印象があります。元々LINEマンガのwebtoonは、作品の多様性が自慢ですが、日本で制作されたwebtoonがよりいっそう増えることで、これまでにないような新しい作品を提供できればと考えています。

――確かに、一般には「webtoonはこういうもの」という偏ったイメージもあると思いますが、LINEマンガの連載作品をチェックすると、あらゆるジャンルの作品が掲載されていることに驚きます。

森:LINEマンガでは当初は韓国の「NAVER WEBTOON」による作品が多く、制作体制も市場も成熟していますから、本当に多様な作品があります。ファンタジーもあれば恋愛もあるし、アクション、バトルもあり、日本のwebtoonではまだ少ないスポーツやホラー作品もある。そうした流れの中で、国内で制作された作品も増えてきていて、それらも含めて多くのジャンルが網羅されているのが、LINEマンガの特徴かなと思っています。

■メディアミックスによるヒット作が出れば国内制作のwebtoonはよりブレイクしていく

――日本でもwebtoonが本格的にブレイクする日が近づいているように感じますが、そのための課題についてはどうお考えでしょうか。

森:アニメやドラマをはじめとして、webtoonを原作としたメディアミックスの事例が日本でも増えてくると、認知度はもう一段階高まると思います。今年の3月にはLINEマンガのオリジナルwebtoon作品『先輩はおとこのこ』のアニメ化が発表されましたが、それを皮切りに今後も日本のwebtoon作品のIP化が進むことを期待しています。

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