図書館にはなぜ漫画が少ないのか? 本好きの憧れ「図書館員」の仕事のリアル

図書館の仕事の実態とは?

 「とある市立図書館の会計年度任用職員として、最低賃金+40円・手取り9万8千円で働いています。一人暮らしはとてもできません。実家で細々と暮らしています」 去年、図書館で働く非正規図書館員が世間に向かって声を発した。

 手取り9万8千円。当然だが、この金額で暮らしていけるとは思えない。だが図書館員の仕事を考えると妥当な金額なのでは、と考えてしまう人もいるかもしれない。本を借りて図書館利用者には、カウンターに座って本のやりとりをしたり、返却された本を棚に戻したりするだけの「簡単なお仕事」に見えてしまうからだ。

 しかしそうではない。だからこの悲痛な叫びに耳を傾け、社会的意味の大きな施設を末長く維持するために図書館について学ばなければならないのだ。でもどうやって……?

 少しでも興味を持った人は、ずいの(原著)、系山 冏(著)の『税金で買った本』(講談社)を読んでほしい。

好きなことをしていれば報酬は少なくて良い?

 『税金で買った本』は、図書館に会員カードを作りにやってきたヤンキーが、かつて無くした本を弁償することをきっかけに図書館に興味をもち、バイトし始める物語だ。読者は、図書館について何も知らないヤンキーの目を通して図書館の仕事を学ぶ。

 図書館員の仕事といえば、本の貸し出しや返却された本を書架に戻す「配架」という作業を想像するだろうが、実はその限りではない。傷んだ本の修復や、寄贈された本の選別、貸し出しできるようにするための書誌データの作成、本の表紙にブックコートフィルムをかけるブッカー作業、紛失された本を利用者に弁償してもらうやりとり、蔵書点検など多岐にわたる。

 このほか、図書館での読み聞かせをはじめとする各種イベントや館内の飾りつけ、利用者の質問に口頭・電話・文書などで回答する「リファレンス」と言われるサービスもある。さらに、ニオイがキツい来館者に席の移動を促す心遣いも求められる。

 そういった専門的な知識や格別な気遣いを必要とされる仕事にも関わらず、日本には「好きなことを仕事にできたら幸せ=報酬は少なくても我慢」という呪いにちかい風潮があるために、本に囲まれて働いている図書館員は労働環境改善の声を上げにくい。

図書館の本を無くしてしまったら

 数ヶ月前に、筆者は近所の公園で雨風にさらされ、バラバラに引きちぎられた本を拾った。修復できる状態ではなかったが、図書館のラベルが貼られていたので連絡してみた。電話口の図書館員は「残念ですが破棄してください」と言って「わざわざ連絡してくださりありがとうございました」とお礼を口にした。

 あっさりとしたやりとりだったが、『税金で買った本』を読んだ今なら、その本が返却されなかった時点から筆者が連絡を入れるまでのドラマが想像できる。

 図書館員は、データ上でどの本が誰によって返却されていないのかを把握している。だが、もし、利用者が「すでに返却しました」と言ったのなら、あらゆる可能性をしらみつぶしにしなくてはならないのだ。図書館を休館し、すべての本をチェックする蔵書点検は、その最終手段だ。それでも見つからなければ紛失扱いとなって利用者に弁償をお願いするわけだが、これが中々スムーズにはいかない。利用者の中には購入を拒否する人、事情があって購入した本を図書館まで持っていけない人、必要がないのに罪悪感から逃れたくて弁償したい人などさまざまなのだ。『税金を買った本』には、「紛失した本」を巡って想像を超える人々が登場する。弁償拒否なんて想像の範囲内なのだ。

 筆者が廃棄した本は、どんなドラマを経て「ありがとうございました」に至ったのだろう。無料で借りられた本は、税金で買ったからこそ、大変なやりとりがあったはずだ。

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