『ガクサン』作者・佐原実波に聞く、学習参考書の奥深い世界「大人になると、もっと多様な目的で使えます」

大人でも楽しめる「学習参考書」の魅力

 出版不況が叫ばれる中でも、紙の本の売上が堅調とされるのが学習参考書である。少子化が進む中でありながら、書店を訪問すると、学参がかなりのスペースを占めていることに驚く。近年は『うんこ漢字ドリル』シリーズのヒットなどもあり、出版業界でも注目に値するジャンルといえる。

【試し読み】学習参考書の魅力に迫った異色の漫画『ガクサン』を読む

 そんな学参そのものを楽しもう、という趣旨の異色の漫画が存在する。それが、現在「コミックDAYS」と「Dモーニング」で連載されている『ガクサン』である。3月23日には、待望の4巻が発売されたばかりだ。学参は大人が読んでも楽しめると話す著者の佐原実波に、紙の書籍ならではの魅力を語ってもらった。

お仕事漫画は「モーニング」の伝統?

――学習参考書(以下、学参)がテーマの異色の漫画です。佐原先生は書店で学参を扱っていたとか、何か縁があってこの題材を選ばれたのでしょうか。

佐原:担当編集の岩間秀和さんから、学参をテーマに1本描いてみない? と話があったのが始まりです。岩間さんの知人に学参に関わる方がいらっしゃったのと、今まで誰も描いたことがないテーマで漫画を作りたいと思っていたそうです。私の方は、最初に話を聞いたときは「学参か~!」と面食らってしまいましたが(笑)。

――前例がないうえに漫画化するのが難しそうな題材だと思いますが、提案を受けて佐原先生はどう思われましたか。

佐原:学参って、学生時代には誰もが使ったことがありますよね。でも、どうやって作られているのか、詳しく知る人は少ないと思います。岩間さんと、もう一人の担当の門田(夕輝)さんと話をするうちに興味が出てきたので、引き受けました。

――主人公の茅野うるしは学参を作っている出版社に中途入社する社員です。連載が始まった雑誌「モーニング」では、昔からいわゆる“お仕事漫画”は王道中の王道ですよね。

佐原:「モーニング」の漫画はサラリーマンに楽しんでもらうことが基本スタンスなのだそうです。漫画を通じて仕事を追体験でき、知らないジャンルを覗けて、好奇心を満たせる作品が多く掲載されているそうです。

――うるしを書店員ではなく、出版社の社員にした理由はあるのでしょうか。

佐原:書店員目線で描くと、どうしても学参のコンシェルジュ的な内容になってしまうと思いました。お仕事漫画的な内容を大きくやるなら、やはり作る側の目線で描いた方がいいだろうと。

――そして、編集者が主人公の漫画はたくさんありますが、うるしは“お客様相談係”というちょっと珍しい立ち位置ですね。

佐原:学参特有の業界事情を描きたかったためです。製作して販売会社の流通に乗せて書店に並べる点は他の本と同じですが、学参は学校に直接営業に行くこともあるなど、独特な流通をしています。そういった他では見られないシーンを描くなら、現在の設定にするしかないなと思ったのです。

キャラクターとストーリーを作る上でのポイント

――作品の舞台である、神保町にある学参の出版社、「いぶき社」のモデルはありますか。

佐原:旺文社、東京書籍、文英堂、Gakken、数研出版、教学社など、参考書を出版している各社さんから話を聞いて、いろいろな会社をキメラ的に合体させています。それぞれの長所を寄せ集めつつ、話が盛り上がるようにうまくアレンジして、話のメリハリがつくようにストーリーを展開させています。

――うるしと学参オタクの福山は秀逸な凸凹コンビですが、こうしたキャラクターの設定はどのように考えましたか。

佐原:初期の段階から2人の細かい設定は考えていましたね。モデルにしたのはシャーロックホームズとワトソン的なコンビで、話の掛け合いをしながらお客さんの悩みや問題を解決する形にしたいと思ったのです。学参を扱う漫画と聞くと、どこか清廉潔白で真面目なイメージを持たれるかもしれません。そのイメージを覆すため、2人ともどこか俗っぽく、欠点を持ったキャラクターにしました。

――執筆にあたっては、書店を回られたり、学参を買い集めたりされたのでしょうか。

佐原:書店には今でも週一くらいのペースで通ったりしています。学参って、実は毎月のように新刊が出ていると聞いたときは驚きました。

――えっ!? そんなに種類が出ているんですか?

佐原:そうなんですよ。学参は高校生のときは1科目あたりせいぜい1~2冊しか買わないじゃないですか。全体の売れる冊数はそれほど変わらない、限られた市場を新しいタイトルが奪うべく、出版社がしのぎを削っている状態なのです。

――ということは、学参の新刊には流行なども反映されていたりするわけですか。

佐原:小学生、中学生向けのものが顕著ですが、ページを開いてみると洒落ているなあと思います。例えば『わけがわかる中学』シリーズ(Gakken/刊)は、中の絵もセンスがいいんですよね。漫画っぽい絵を使った学参も増えていますね。学参が使いやすいかどうかは個人の感性で違ってくると思いますが、少なくとも現在の受験生は、バリエーション豊富な中から自分に合った一冊を選べるのがメリットだと思います。

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