吉本興業・大﨑洋会長が振り返る、ダウンタウンと歩んだ道「僕がここまでできたのは、ふたりの才能を信じることができたから」

吉本興業・大﨑洋会長インタビュー

ダウンタウンにかけたアドバイス

――90年代は満を持してダウンタウンが東京に進出しました。大﨑会長はふたりにどんなアドバイスをしたのでしょうか。

大﨑:ダウンタウンに関しては、僕が育てたわけでも仕掛けたわけでもないと思いますよ。僕はあくまでもふたりがやりたいことを否定せず、「そやね、やろか~!」と言ってやらせただけなんです。マネージャーを始めて1年くらいはちょっと口を挟んだ時期もあったけれどね(笑)。でも、僕みたいなサラリーマンと芸人では成長曲線が違うんですよ。ふたりはぐんぐん才能を開花させていった。たった1年しか僕の言うことを聞いてくれなかったな(笑)。

――でも、大﨑さんは担当したダウンタウンが売れていくのを見て、嬉しかったのでは。

大﨑:それよりもボーッとやる気のないアホだった僕を、ふたりが頼ってくれたことが一番嬉しかったですね。本当に俺でいいの?……という感覚で、頼まれたことを一生懸命、無我夢中でやってきました。

――そうした感動や喜びが大﨑会長の原動力なのだと思います。

大﨑:仕事は嫌なことも多いですよね。でも、新しく刺激的なことに出会うと、よーし、やってみよう! と思ったりするじゃないですか。僕の人生はそれの連続ですね。

――見出した芸人さんを信じ抜き、芸風を否定しなかったことも大﨑会長の凄い点だと思います。

大﨑:僕は芸人に居場所をつくるのが仕事だと思っているんです。そのままでいいんだよと、抱きしめてあげる仕事ですね。今だと本当に抱きしめたらセクハラとかパワハラと言われるかもしれないけれど(笑)、僕は最高のコミュニケーションだと思っていて。アメとムチという言葉がありますが、使い分けをせずに、ずっとアメちゃんをあげ続けてもいいんじゃないかと思いますよ。だから、僕の信条は“Let It Be”ではなく、“Come as You Are“なのかな。

――そういう大﨑会長だからこそ、ダウンタウンのマネージャーが務まった気がしました。

大﨑:あのふたりのマネジメントをしようと思ったら、そのくらい(そのままでいいよ、と)言っておかなかったら普通の人なら3日間でやめてしまいますよ。僕はボーッとやっていたから、よかったんじゃないかな。あと、いい加減にダラダラと仕事して、半分くらい嘘つきだったのもマネージャーが務まった要因だと思います(笑)。

吉本興業は居場所を亡くした人たちの避難場所

――吉本の知名度は今や全国区でブランド力も健在です。お笑いに進出している芸能事務所はたくさんありますが、吉本に憧れる芸人さんが多いのはなぜでしょうか。

大﨑:吉本ってそれなりに自由にできるからだと思いますよ。自由闊達な空気が、現場やマネージャーの間にも流れている。大前提ですが、もともと笑いに関わっていた人たちのルーツは、社会の中に居場所がなく、仕事を探してもできることないし、しょうがないから漫才でもしようか~と言ってきた人たちです。自分の居場所が見つけられない、もしくは居場所を亡くした人たちの避難場所が吉本興業だと思っています。そのぶん、世間の常識だけでは語れない要素があるのは確かです。

――そうした人たちにとって吉本が救いの手を差し伸べて、居場所を作ってきたと。

大﨑:若い子たちも居場所がなくて悩んでいる人は多いでしょう。僕はそういう人たちを受け入れてあげたいと思ってるんです。そして、あなたはそのままでいいんだよと言ってあげたいですね。

――今後はどのような会社になっていくと思いますか。

大﨑:岡本昭彦社長は、チームビルディングなど人への任せ方が凄く上手いので、今後は彼の活躍でもっといい会社になるのではないかと思ってます。吉本ってその時ごとに必要とされる社長や部長、いいマネージャーが生まれているので、いい会社だなあと思います。これから先、もっと吉本の笑いは楽しくなりますよ。

――YouTubeなどの動画サイトが普及し、テレビが大きな変革期に差し掛かっていると言われています。

大﨑:吉本はテレビ放送が始まってから70年間、毎日テレビ局に出入りして仕事をもらってきました。テレビやバラエティは芸人の居場所になっていたのですが、さて、この先どうなるのでしょうか。YouTubeやTikTokなど、新しい居場所は続々と出てきていますし、最近だとChat GPTなんてもんもメディアを大きく変えると言われている。少なくともこの5年くらいで、テレビの有り様も大きく変わるんじゃないでしょうか。吉本としては、芸人たちが場所を選ばずに活躍できるように、選択肢を広げてあげたいですね。

――動画サイトがあるからこそ、テレビの魅力が再発見されつつあるとも思います。

大﨑:テレビって家族のコミュニケーションにもなりますからね。例えば、エッチなシーンがある番組の最中には、お父さんが「みんなお風呂に入っておいで」と言ったりできますよね(笑)。でも、スマホの場合、子どもがエッチなサイトを見ていても何をしているのかがわからないという怖さがあるわけでしょ。テレビはオワコンと言われて久しいですが、メリットも多く、いい番組を作れば影響力があると思います。とはいえ、テレビが家族の中心にあった時代にはもう戻らないやろなあ。

大﨑会長の居場所はどこにあるのか

――今回の本のタイトル、そしてテーマは“居場所”ですね。激動の時代を歩んできた大﨑会長の居場所は現在、どこにあるのでしょうか。

大﨑:自身の居場所はどこでしょうか。この問いに答えるのは凄く難しいと思っています。この本を出させてもらって、そもそも俺って何をしたかったのかなと2~3週間くらい考えていたら、わからなくなった(笑)。

――とはいえ、大﨑会長と言えばやはりお笑いのイメージが強いです。やはりお笑いに関わることが天職であり、居場所なのではないかと思うのですが。

大﨑:お笑いは……もう飽きた(笑)。でも、僕なりにお笑いの勉強や経験をして、毎日楽しかった思い出なりを、居場所がない若者と共有してみたいとは思っていますね。ダウンタウンがテレビに出たとき、僕もふたりもお互いに教えたり教えられたりしたんですよ。そういう関係を作れる立場に、もう一度戻ってみたいかな。ひょっとすると、僕の70歳以降の居場所はそれなのかなと思ってもいます。

――素敵な生き様です。大﨑会長のこれからのご活躍に期待したいです。

大﨑:「最近、大﨑会長がかっこええなあ~」と思ってもらえる生き方を目指していきたいですね。

■書籍情報
『居場所。』
大﨑 洋 著
発売日:3月10日
価格:1,650円
出版社:サンマーク出版

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