曽我部恵一はなぜ“デモテープのような本”を出したのか「今の自分の生活を自分の言葉で書いておきたかった」

曽我部恵一16年ぶりのエッセイ集

大きなヒットがなかったことでのんびりやってこれた

ーー曽我部さんは2004年に『ROSE RECORDS』を立ち上げ、来年で20周年を迎えます。こんなに長く続くと考えていましたか。

曽我部:最初は苦し紛れにやり始めたところもあって、続くも続かないもあまり考えてなかったんです。多分すぐ年とっちゃうから、何にもわかんないけれどやってみようって無知なりに始められたことが良かったかもしれないですね。

『ROSE RECORDS』を立ち上げた当初は、10年くらいやったらヒット作が出るだろうと思っていたんですよ。でもこれまでに300タイトルくらい出しているけれど、ヒット作はひとつもない(笑)。ただ、今まで大きなヒットがなかったおかげで、らはスタンスを変えずにのんびりやってきたっていうのがあると思うんです。もしヒットが生まれていたら、もっとヒットする曲を作らなきゃいけないと考えていたかもしれない。マイペースでやってこれたのも長く続けられた要因かもしれません。自分が心の底からいいと思えるものを作る。自分が心から満足できるものを聴いてほしい。本当に今はそれだけなんですよね。

ーー本書に掲載されている写真も魅力的です。曽我部さんの日常がシンプルに写されていて。

曽我部:撮影してくれた石垣星児は、今はプロのカメラマンなんですが、その前にうちの事務所で働いていたことがあるんです。僕が何かやってるところを彼が撮影しているんですが、僕は何も気にしてないし、何を撮られてるかも全然わかってなくて(笑)。本当に生活の一部が写っていますね。

ーー本書の中では愛読書として北山耕平さんの『自然のレッスン』が紹介されていますね。最近曽我部さんが読んだ本で印象的だったものはありますか。

曽我部:ちょっと古いんですけど、横尾忠則さんが黒澤明さんや淀川長治さん、草間彌生さんやよしもとばななさんなどと対談をしている『見えるものと観えないもの―横尾忠則対話録』(1992年6月 筑摩書房刊)は面白かったですね。けっこう過激な内容で、横尾さんが草間さんとケンカしてるんですよ。草間さんは帰るって言い出したりしていて。そんなバチバチした感じがそのまま本になってるんです。そんな本、今はないですよね。

 あと、モブ・ノリオさんの『JOHNNY TOO BAD 内田裕也』(2009年10月 文藝春秋 刊)という小説と対談集が合体した本も、最初から内田裕也さんと一戦交えるように喧嘩腰なんです。なんかすごい熱量に溢れた本で、こちらも圧倒されるというかパワーをもらえました。こういう対談集もいいなと思いますが、今なら編集者が止めに入るんでしょうね。

ーー止めるでしょうね(笑)。内田さんや横尾さんとはまたスタイルが違いますが、この本の曽我部さんの自由で率直な感じは、読者を触発するパワーがあると思います。

曽我部:これから社会に出ていこうという人たちはすごく不安が大きいと思うし、若者に限らずみんな不安があると思うんですね。これから10年後って、どうなっているか本当にわからない。だから、まずは普通の生活っていうのをエンジョイして、そこに何か幸せみたいなものを自分で見い出していくことが必要だと思うんです。当たり前のことなんですけど、それが一番大切なんじゃないかって。

 編集の方は本書でそういうことを書いてほしかったんだと思います。僕は結婚に失敗したり、日々の暮らしでも大変なことはいっぱいあるけれど、「でもこんな幸せもあるんだよね」ということに気づいてもらえたらいいですね。

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