ライト文芸、“親しみやすさ”と“深いテーマ”で大人も虜に 幽霊との交流描く青春物語『君が、僕に教えてくれたこと』著者が語る魅力

ライト文芸が大人も虜にする理由

 近年、新たなジャンルとして注目を集めている「ライト文芸」。ライト文芸は、いわゆるライトノベルと同じようにカバーにはイラストを採用しているが、内容はキャラクターを主体としつつも、ストーリー性や描写に重きを置いていて、女性を中心に幅広い年齢層から支持を集めている。集英社オレンジ文庫、スターツ出版文庫、ことのは文庫といったレーベルから刊行されており、代表的な作品としては『これは経費で落ちません! ~経理部の森若さん~』、『後宮の烏』、『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』、『一瞬を生きる君を、僕は永遠に忘れない。』などがある。小説として親しまれているのはもちろんのこと、アニメ化や実写化も盛んに行なわれており、今後もさらに盛り上がっていくと見られているジャンルだ。

 そんな注目のジャンルで、また新たな作品が3月20日に刊行された。タイトルは『君が、僕に教えてくれたこと』。「心に響く物語に、きっと出逢える」を謳う、ことのは文庫から刊行された本作は、高校生の天(てん)が、セーラー服姿の幽霊・陽菜と出会うことから始まる青春物語だ。

 「あたしのお姉ちゃんを守ってほしいの」最初は煩わしく思っていた陽菜からの頼みごと。しかし、その出会いは天の過去とも繋がっていて……。大事な何かを忘れてこの世を彷徨う幽霊と、大切な人を亡くして戸惑う残された人たち。天と陽菜の過ごした2か月間は、止まってしまったみんなの心をゆっくりと動かしていく。同時に、この物語を読んだ私たちの心にも温かなものが流れ込んでくる、そんな優しい1冊だ。

『君が、僕に教えてくれたこと』ことのは文庫公式PV

 幽霊という題材は、感情の機微を描くライト文芸において、特に人気を集めているものでもある。青春物語である本作においては、幽霊でありながらも天真爛漫な陽菜と、見た目は怖いけれど実は心優しい天の甘酸っぱいやり取りにキュンとさせられつつも、紡がれていく人々の想いや命の儚さが感じられ、まさにライト文芸の王道といえる感動的な物語となっている。そこで今回、著者である水瀬さら先生に、幽霊を題材にした理由や、ライト文芸の盛り上がりについて話を聞いた。

「もともと、ちょっと不思議な話を書きたいと思っていたんです。よく生や死を軸に物語を考えて書いているんですけど、人が生きていくなかで大切な人が亡くなるという経験は必ずやってくることだと思うんですよね。そこで、残された側の人たちの気持ちに寄り添える作品を書けたらな、と。

 悲しい出来事を受けて“頑張って生きていこう”って乗り越えていく人もいる一方で、頑張れない人もいていいと、私は思っていて。動けないなら立ち止まっていてもいいし、涙が出てしまうのなら泣いたっていい。なんなら、戻っちゃってもいい。無理に“忘れなきゃ”、“乗り越えなきゃ”って焦らずに、少しずつ前を向いていけたら……そんな願いを込めて書きました」

 ストーリーや描写を重視するライト文芸において、幽霊はドラマチックで魅力的な題材と言えそうだ。一方で、人気のある題材だからこそ、切り口には一工夫が必要となる。

「実は最初、かわいくて元気な幽霊と、幽霊が見える男の子のラブコメにしようかなと考えていました。でも書き進めながら、陽菜の忘れてしまった大事なことや、天の過去、周囲の人々の人生……と、いろんなことが一つに繋がっていく形にしていこうと思って。全体のプロットを固めずに思いつくままに書いたお話なので、そのあたりが難しかったですね」

『君が、僕に教えてくれたこと』(ことのは文庫)

 また、ライト文芸の特徴のひとつに、登場人物のキャラクターが魅力的に描かれるという点がある。本作でも幽霊とは思えないほど明るく屈託のない陽菜や、頼まれたら断れない性格の天の姿が、表紙のイラストからも見て取れる。

「表紙がキレイなのもライト文芸の良さですよね。私もよく表紙買いしちゃうタイプなので、『君が、僕に教えてくれたこと』も、人気イラストレーターのフライさんによるかわいらしい装画にしてもらえてうれしいです。ことのは文庫の場合は、背表紙にも絵があるので、うしろに天もしっかり描かれているのも注目してもらいたいです」

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