『おまわりさんと招き猫』著者・植原翠インタビュー 「日常の中にある、ちょっと不思議な出来事を書きたい」

『おまわりさんと招き猫』インタビュー

 マイクロマガジン社のオトナ女子向け文芸レーベル「ことのは文庫」の人気作品『おまわりさんと招き猫 あやかしの町のふしぎな日常』が、このほど3刷重版出来となった。昨年12月には続編『おまわりさんと招き猫 おもちとおこげと丸い月』も刊行されてシリーズ化、好評を博している。

 のどかな海辺の町の交番に住みつく、人間の言葉を話すふっくら太った猫「おもちさん」と、新米おまわりさんの小槇くんを中心に、人とあやかしの不思議な交わり、そして人と人との切なく温かい関係性が描かれる本シリーズ。あやかしの存在やささやかな謎を軸にしてストーリーが紡がれてゆくが、何よりキャラクターたちからにじみ出る優しい手ざわりが大きな魅力になっている。今回、リアルサウンドブックでは著者の植原翠にインタビューを実施、人気シリーズとなった『おまわりさんと招き猫』の原点や、本作が描き出す「優しさ」についてなど、執筆の背景について掘り下げてもらった。(嵯峨景子)

テレビで警察犬を見たことが、大きなきっかけ

『おまわりさんと招き猫 あやかしの町のふしぎな日常』

――昨年12月にシリーズ第2巻の『おまわりさんと招き猫 おもちとおこげと丸い月』が刊行され、第1巻の『おまわりさんと招き猫 あやかしの町のふしぎな日常』は3刷重版出来と好調です。そもそも、本シリーズはどのようにして生まれたのでしょうか?

植原翠(以下、植原):一度ウェブで公開したんですね。そうしたら、それを見たマイクロマガジン社さんに拾っていただけて、ことのは文庫で展開してもらえたという、かなり運のいい作品です。

――ことのは文庫から刊行ののちヒットして続編も発売されてという経緯をみると、適切なところに出会ったということかもしれないですね。

植原:そうですね、いいレーベルに拾っていただけたなって思ってます。「おもちさん」が、一番いい居場所を見つけてきたのかな(笑)。

――そのおもちさんは本シリーズの中心にいる、人の言葉を話す猫のようなキャラクターです。おもちさんの着想はどのようなところから?

植原:テレビで警察犬を見たことが、大きなきっかけになっています。人の言うことをしっかり聞いて賢くて、という警察犬の様子を見て、これがもし猫だったら?と。猫って気まぐれで、あまり人の言うこと聞くイメージじゃないので。そこから膨らませていって、おもちさんという、もう普通の猫ですらないこのキャラクターに仕上がりました。

――おもちさんの性格や人間との距離感など、どのように造型されたのでしょう?

植原:警察犬とは逆に、マイペースで気ままな性格にしたいなと思いました。以前、自分が飼っていた猫もやっぱり気まぐれな子だったんですけれど、それでいて空気が読めるというか、人をちゃんと見ていて、悲しい時にそばにいてくれるような子だったんです。おもちさんも、自分の役割をちゃんと理解しているキャラクターとして書いています。

――あやかしものの小説では、人間ならざる存在が人の言葉を話すことは珍しくないですが、『おまわりさんと招き猫』では、おもちさんが人語を喋ることを町の人たちもごく自然に受け入れていますよね。

植原:新しい登場人物が出てくるたびに、いちいち驚いたり説明したりという記述を省くためというのはあるんですけれども(笑)。でも、みんながそんなふうに受け入れているってことは優しい町なんだなという雰囲気も出せますし。そんなところから、町の空気も自ずと決まっていった感じですね。

――おもちさんと町の人々との関係を描く際に、大切にされていることはありますか?

植原:1巻のあとがきにも書きましたが、やっぱり距離感が一番大きいかなと思っておりまして。おもちさんは人間に対して執着しすぎないし絆を求めすぎない。人間の方も、おもちさんがあまり触れてほしくないところには触れすぎない。そういう距離感を大切にしています。

――作品の舞台となる海辺の町「かつぶし町」は、植原さんのおられる静岡県がモデルに?

植原:そうですね。強く意図して静岡をモデルにしたわけではないんですけれど、自分が静岡市から出たことがないので、風景がそのまま物語に落とし込まれていると思います。漁港などのモデルは静岡市にある用宗(もちむね)、それに焼津市ですね。私もよく漁港の近くを散歩しますが、猫がいっぱいいるので居心地がいいんだろうなって。それなら、おもちさんにとって居心地がいいのもこういう町だろうと。風景などもおもちさん基準で考えています。

――かつぶし町はどこかノスタルジックで、その雰囲気も魅力的ですね。

植原:特に『おまわりさんと招き猫』は妖怪がテーマになっていることもありまして、日常に妖怪が潜んでいそうな、ちょっと昭和的な雰囲気が残っているところがいいなと思い、ノスタルジックな風景にしています。

『おまわりさんと招き猫 あやかしの町のふしぎな日常』 ことのは文庫公式PV

――おもちさんと並ぶもう一方の主人公が、かつぶし町の交番に勤務するおまわりさんの小槇くんです。小槇くんの人物造型で大切にされていることはありますか?

植原:おもちさんがかなり特殊なので、小槇くんの方は等身大で読者さんが共感しやすいキャラクターにしています。親しみやすい近所のお兄さんで年上からも年下からも好かれて、あまり悩みとかなさそうに見えるんだけど、本人もそれなりにいろんなことを考えていると感じで書ければと思っています。

――第1巻の序盤、小槇くんがおもちさんという存在の定義を考えるような場面があります。植原さんの中ではおもちさんの位置付けや定義は決められているのでしょうか?

植原:これが、まったくないんです。最初は「おまわりさんと化け猫」「おまわりさんと猫又」など色々考えたんですが、どれもしっくり来なくて。結局、語感が一番良かった「招き猫」になって、キャラクターを作っていきました。なので、私の中で定義は決まっていないですし、むしろ他の既存の存在と被らないように、ちょっと特殊な設定を増やしたり減らしたりしていますね。

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