『ドラゴンボール』 90年代小学生は1秒でも早く読まなければいけなかった時代を振り返る

『ドラゴンボール』「亀」マークはどう変化した?

 吾峠呼世晴の漫画『鬼滅の刃』がアニメ化され、大ヒットしたとき、マスコミによって広められた“キメハラ”という言葉がある。“鬼滅の刃ハラスメント”の略で、『鬼滅の刃』をまだ読んでいない人や、面白さがわからないという人に対し、「なんで読まないの?」「この面白さがわからないなんておかしい」などと同調圧力をかける行為である。

 

 ワイドショーやニュースサイトでも取り上げられて議論を呼んだが、当時、小~中学生に聞いてみると「そんなことは言われたことがない」と言っていた。既に「週刊少年ジャンプ」の読者層は高まっており、小学生の間では漫画が話題の中心になることが少なくなっていたためだろう。“キメハラ”がいったいどれほどの規模で行われていたのか疑わしい部分はあるものの、悩まされた層はTwitterやSNSを扱う大人が中心だったと思われる。

 一方で、記者は小学生の頃、ある漫画について「なんで読まないの?」とクラスメイトから圧力を受けたことがある。その漫画とは『ドラゴンボール』である。

 1990年代、『ドラゴンボール』は小学生の、特に男の子たちの話題の中心だった。記者は一学年わずか19人しかいない田舎町の小学校に通っていたが、そんな田舎でも『ドラゴンボール』の人気は絶大だったのである。「ジャンプ」の発売日(東京より数日遅かったが)やテレビアニメ放映日の翌日は、クラスが『ドラゴンボール』の話題でもちきりになっていた。何しろ、あの頃は「ジャンプ」の発行部数が600万部を超えていたのである。漫画やアニメが桁外れのパワーを持っていた時代だったと思う。

 今思えば、“キメハラ”なるものがあるなら、記者が体験したのは“ドラゴンボールハラスメント”だったのではないか。当時、記者は漫画にまったく興味がなかったため、『ドラゴンボール』は見たことがなかった。しかし、クラスでもっとも人気のあった男の子が無類の『ドラゴンボール』好きであり、しかも孫悟空のイラストを描くのが上手いのである。

 記者は何かといじられ、「『ドラゴンボール』を読まないなんておかしい」「知らないなんて格好悪い」などと言われた。彼には泣かされ、悔しい思いをしたため、母に必死にお願いして『ドラゴンボール』の既存の単行本を全巻買ってもらい、「ジャンプ」を定期購読することにしたのである。そして読み始めたところハマってしまい、熱烈な『ドラゴンボール』ファンになってしまい現在に至るのだが、おそらく現在30~40代の世代なら、似たような体験をした人がいるのではないかと思う。

 当時の小学生がおかれていた状態を、漫☆画太郎が『DRAGON BALL外伝』という漫画に描いている。教師が生徒に、残している給食をさっさと完食して家に帰るよう促す。早く帰って『ドラゴンボール』のアニメを見ないと、次の日のクラスの話題に取り残されるぞ…と不安を煽って嫌がらせをするのだが、これは、当時私が味わった体験そのものである。

 記者は『ドラゴンボール』を薦めてくれた彼のおかげで、結果的に漫画好きになることができたし、現在は漫画関連の仕事をすることができているので良かったといえるが、漫画はあくまでもエンタメである。「なんで読まないの?」と言いたくなる気持ちはわかるが、強引に薦めたり、圧力をかける行為は控えたいものだ。

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