打率よりOPS? 勝ち星よりFIP? 進化著しい「データ分析」からみる野球の面白さ(打撃編)

「データ分析」からみる野球の面白さ

■打球の質――どのような打球がヒットになるのか?

 セイバーメトリクスは選手の成績を評価するための方法だが、現代のトラッキングシステムによるデータ分析は打撃の内容――「打球の質」にも迫っている。
 その顕著な例が「バレル」だ。

 バレルとは、長打が出やすいとされる打球の速度と角度の組み合わせで構成されるゾーンのことで、バレルゾーンに入った打球は必ず打率.500以上、長打率1.500以上になる。

 バレルになる打球は最低でも打球速度158km/hが必要で、158km/hの打球は角度26度から30度がバレルゾーンになる。

 閾値の187km/hになると8度から50度の角度がバレルゾーンになる。

 そのため、打球速度を上げることは重要だ。

 侍ジャパンの強化試合で大谷翔平の打球の凄まじさに驚かれた方も多いかと思うが、MLBで長打を量産する打者はやはり伊達ではない。(なお、この「バレル」についてAmazon Prime Videoの配信ではちゃんと取り上げられていた)

 打球速度を上げるにはスイングスピードを上げるのが近道だが、スイングスピードを上げることには副次的な効果がある。

 クロマツテツロウ氏の新時代の野球マンガ『ベー革』では、進学校で練習時間の限られている主人公の高校が「フィジカルを効率よく鍛えてスイングスピードを上げる」ことで練習量不足をカバーしているとの説明がある。

 調子のいいバッターが「ボールがよく見えている」と発言するのをしばしば聞く。

 これは、あくまで想像だが「スイングの状態が良いとバットスイングの始動を少し遅めにしてもボールにコンタクトできるので、調子の悪い時に比べて相対的にボールを見極める時間が長くなっている」ということなのではないだろうか。

 この「ボールがよく見えている」というのはあくまでプレーヤーの感覚に過ぎないのだろうが、そういう感覚も大事なのだろう。

■ただし長打と四球がすべてではない

 なお、長打を狙って引っ張りまくるプルヒッターの多いMLBだが、彼らはメジャーリーガー。世界最高の野球選手たちだ。

 打者は短期決戦のプレーオフになると引っ張り対策シフトで空いたゾーンを狙って流し打ちしてくる。

 長期戦のレギュラーシーズンと違い、短期決戦のプレーオフは一点の重みが大きく異なる。バントは2点目が取れる確率こそ下がるが、目先の1点を狙いに行くには有効な作戦だし、ここぞという場面で決まった盗塁は流れを変える。

 普段なら常に長打狙いでも、目先の一点狙いならばシフトの穴をついてシングルヒットを狙うのも重要な作戦だ。

 世界最高のプレーヤーたちなのだからその程度のことはやってできないわけがない。
 ただ普段はやらないだけなのだ。

 一発勝負のWBCでもアメリカ代表のノーラン・アレナド(本塁打王3回)、ポール・ゴールドシュミット(本塁打王1回、シーズンMVP1回)、マイク・トラウト(シーズンMVP3回、打点王1回)といった現代のMLBを代表するスラッガーが華麗な流し打ちを度々見せている
 短期決戦での1点の重要性を分かっているのだろう。流石はメジャーリーガーである。

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