打率よりOPS? 勝ち星よりFIP? 進化著しい「データ分析」からみる野球の面白さ(打撃編)

「データ分析」からみる野球の面白さ

■打撃の質――「あの打者はどれぐらい凄いのか?」を数字から読み解く

 さて、かなりの長尺で長打率と出塁率の重要性を説明してきたが、それ以外の指標は決してどうでも良いわけではない。

 打率は低いよりも高い方が良いし、三振は確実にアウトになってしまうので、三振数も少ない方がいい。

 これらをまとめると、最高の打者とは「高打率を残す打撃技術」「長打を量産する長打力」「四球を多く選ぶ選球眼」「三振をしないコンタクト能力」を兼ね備えた選手と言うことになる。

 あまりにも当たり前の結論だが、これらの条件をすべて備えている選手は非常に少ない。

 昨年のMLBでナショナルリーグの本塁打王になったカイル・シュワーバーは46本塁打を放った一方、リーグ最多の200三振を喫している。

 同じく、昨年のMLBでアメリカンリーグ新記録の62本塁打を打ち、記録的な猛打でMVPも受賞したアーロン・ジャッジも175三振とかなり三振は多い。

 ジャッジは一度目の本塁打王を獲得したシーズンに、リーグ最多三振も喫している。

 三振は本塁打のコストなのだ。

 加えて、「打率が高い」ことと「三振が少ない」ことは必ずしも一致しない。

 2002年シーズン、.250にも届かない低打率だったシュワーバーと違い、ジャッジは.311とかなりの高打率を残している。だが、ジャッジの三振数はかなり多い。

「高打率を残す」と「三振をしない」は必ずしもイコールではない。

 打率を残すには四球を選ぶ能力も重要になってくるので、深いカウントまで行くことが多い=三振が多くなりがちなのだ。

 昨年のNPBで記録的な猛打をふるい、史上最年少の三冠王を獲得した村上宗隆はありとあらゆる打撃指標がトップクラスだったが三振は多い。リーグ最多三振は2度あり、レギュラー定着以来、毎年3桁の三振を喫している。

 三振が少ない選手に多いのは早いカウントから打っていくタイプだ。

 昨年のアメリカンリーグ首位打者を獲得したルイス・アラエスは典型的なフリースウィンガー(早打ち)タイプだ。

 コンタクトが上手く早打ちなので、三振は少なく、2022年の三振43個はシュワーバーの約5分の1、ジャッジの4分の1以下だ。

 しかし、打率.316に対して出塁率は.375と打率が高い割には物足りない。

 僅差で首位打者を逃したジャッジの出塁率は.425で、出塁率では圧勝している。

 アラエスは本塁打数も一桁、OPSは.795で総合的な攻撃力はジャッジ(OPS1.111)と比べて大分落ちる。

 低打率だったシュワーバー(打率.218、OPS.827)と比べても落ちる。

 三振を減らすには「追い込まれる前(早いカウント)から打つ」ことの他に「長打を捨ててコンタクトに徹する」のも近道だが、そうすると出塁率と長打率は伸びなくなる。

 「パワプロ」の通称で知られる人気野球ゲーム「実況パワフルプロ野球」では「強振」を選択すると長打が出やすくなる代わりにミートカーソルが小さくなり、コンタクトが難しくなるが、感覚的にパワプロのゲーム設計はいいセンをついているのかもしれない。

 しかし、ごくまれに四球を大量に選び、長打を量産しながら、高打率を残すようなとてつもない打者が登場する。

 2000年代のMLBで怪物級の活躍をしたバリー・ボンズがその最上クラスの例だ。

 ボンズはMLBの通算本塁打記録とシーズン本塁打記録を保持しているMLBの歴史に残る怪物打者だが、長打を量産しながら高打率を維持し、四球を大量に選び、三振は驚くほど少なかった。

 新記録の73本塁打を打ったシーズンも凄かったが、2004シーズンもすごい。

 打率.362、45本塁打、101打点、出塁率.609(MLB歴代最高記録)、長打率.812。
OPS1.422(MLB歴代最高記録)と超一流のスラッガーの成績を残しながら41三振しか喫していない。

 三振は本塁打のコストだが三振数が本塁打数を下回っている。

 四球を多く選ぶと三振数も増えがちだが、232四球に対して三振数は1/5以下だ。

 この年のボンズはさんざん警戒され、232四球のうち120は故意四球(敬遠)だったが、その分を差し引いても三振数の方が四球数より圧倒的に少ない。薬物問題さえなければ確実に殿堂入りしていたことだろう。

 なお、余談だが通算四球数でMLB歴代一位を記録しているのはボンズだが、敬遠を除くと1位はリッキー・ヘンダーソンだ。年間と通算の盗塁記録保持者として知られるヘンダーソンはとにかく粘り強く四球が多かった。移籍の多かったヘンダーソンが最も長く在籍した球団はアスレチックスである。ビーン好みの選手だったのだろう。

 「高打率を残す打撃技術」「長打を量産する長打力」「四球を多く選ぶ選球眼」「三振をしないコンタクト能力」を兼ね備えた選手は殿堂入りプレーヤーでもそれほど多くない。

 すでに殿堂入りしている選手ならばフランク・トーマス、チッパー・ジョーンズ、エドガー・マルティネス、まだ引退したばかりだが殿堂入りが確実されているアルバート・プホルスなどの全盛期がその例に当たる。

 加えて彼らは全員鈍足、あるいは少なくとも俊足ではない。内野安打で打率を稼げないため、全盛期のイチローのように当たり損ねがヒットになる確率は低かった。足で稼いだヒットを殆ど期待できないにも関わらず高打率を残しているのだ。

 日本プロ野球のレジェンドだと、史上最多の三冠王を三度獲得した落合博満氏がその例だ。

 特に二度目の三冠王を獲得した1985年はキャリアハイのOPS1.244を記録し、高打率(.367)、長打を量産(52本塁打)、四球を選ぶ(101四球、出塁率.481)にもかかわらず、三振は四球の半分以下、わずかに40だった。ちなみに落合氏も鈍足である。

 強打者の代名詞的存在である王貞治氏の打撃成績も凄い。

 1974年は2年連続の三冠王に加え歴代一位の出塁率.532、158四球、OPS1.293を記録している。それでいて44個しか三振していない。

 現役の日本人選手だと非常に精度の高い打撃成績を残しているのが吉田正尚だ。

 5年連続で打率3割、首位打者を二度獲得している名選手なので「今さら」感があるが内容をつぶさに見ていくと凄さがより良くわかる。

 レギュラーに定着して以来OPSは毎年.950以上。

 昨年は僅差で3年連続の首位打者を逃したもののOPS1.008はリーグ一位だった。

 吉田の三振数は一度も三桁に乗ったことが無く、出塁率は毎年4割を超えている。

 4年連続で四球>三振を達成しており、例年よりやや三振が多かった昨年(2022年)ですら三振の倍近い四球(80四球、41三振)を選んでいる。

 長距離砲というよりは中距離打者と言った方がしっくりくる選手だが、ここ2年は連続で20本塁打以上を放っており平均以上のパワーもある。

 2021年シーズンは本塁打王を争うことは無かったが長打率.563はリーグ1位だった。

「高打率を残す打撃技術」「長打を量産する長打力」「四球を多く選ぶ選球眼」「三振をしないコンタクト能力」を兼ね備えていると言っていいだろう。WBCでも侍ジャパンの主軸として大活躍したが、今期から挑戦するMLBでも活躍を期待したい。ちなみに彼も俊足ではない。

 ところで吉田と同じく、全盛期のトーマス、ジョーンズ、マルティネス、プホルスも「パワーヒッター」というよりは「パワーのあるコンタクトヒッター」「中距離打者」という印象があった。

 お股ニキ氏はパワプロのように「強振かコンタクトの二択」「ゼロか100」ではなく「60-80ぐらいの力感」が最も良い結果が出るのではないかと分析しているが、彼らのような「コンタクトが上手いが当たると飛ぶ」タイプはその「60-80ぐらいの力感」で成功しているのかもしれない。

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