『キャプ翼』高橋陽一の野球好きは本物だった……週刊少年ジャンプ連載作『エース!』から伝わる情熱

『キャプ翼』高橋陽一の野球漫画とは?

 快進撃を続けるWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)日本代表「侍ジャパン」が、日本中のファンを魅了している。そのなかで、侍ジャパンにエールを送ったことが話題になったのが、サッカー漫画の金字塔『キャプテン翼』で知られる高橋陽一氏だ。3月16日、『パラリンアートカップ2022 表彰式』に登壇した高橋氏はWBCに注目していると語り、もともと野球が好きだったことを明かした。

 高橋氏が手がける『キャプテン翼』は国内外に多くのファンを抱え、読者から数々のスーパースターを輩出してきた。しかし、「野球好き」はトレンドに合わせた建前の言葉ではなく、高橋氏は高校時代に軟式野球部に所属しており、「週刊少年ジャンプ」で『キャプテン翼』(1981~1988年)を連載したあと、1989年から『エース!』という野球漫画を連載していた。果たしてどんな作品だったのか。

 主人公は、才能あふれる野球少年の相羽一八。野球選手の父から猛特訓を受け、少年野球の名門・調布ブルージェイズでエースを張るなど活躍してきた。しかし、叔父が試合中に失明し、父が同様に試合中の事故で亡くなったことから、祖父が野球から遠ざけていた。若宮小学校に転校し、当初は陸上部に入っていたが、同校野球部のファイターズが、次の地区大会で優勝できなければ廃部になると聞かされ……という、王道感のあるストーリーだ。

 サッカー漫画より歴史が古く、バリエーションも豊かな野球漫画という世界で突出した人気を獲得することこそなかったが、東京の下町を舞台にした少年スポーツもので、初期の『キャプテン翼』も想起させる熱い物語だ。

 小学生らしからぬ驚くべき能力を持った選手たちの活躍も『キャプ翼』に通じるところだが、一方で、主人公・相羽一八の決め球が、利き腕から対角線上に投げ込む「クロスファイヤー」なのはなかなか渋い。その他、ライバルチーム「花園ヤンキース」のエース・新村 卓哉が操るナックルボールや、「一ノ瀬レッズ」のエース・赤城 一平のフォークボールなど、現実に存在する”魔球”が決め球として描かれており、その習得が血のにじむ努力や執念によるものなのも、やはり渋い。「少年野球」というリアリティは飛び越えているが、作者の野球好きはしっかり伝わってくる。

 30年以上も前の作品であり、読んで懐かしさを感じるのは当然のこと。エースナンバーの「18」から「一八」、調布ブルージェイズでキャプテンを務める熱血漢は「真島大将」、トップバッター&センターのスピードスターは「飛田俊足」、成績優秀なセカンドは「野本博士」と、名前でキャラクターがわかりやすいのも時代を感じる。

 しかし、日本サッカーが世界に太刀打ちできない時代から『キャプ翼』で夢を描き続け、大谷翔平のようなベーブ・ルースを超える二刀流や、160kmのストレートを投げる高校球児が出てくるなんて想像もつかない時代から「エースで4番」の豪腕を描いていた高橋陽一は、誰より日本スポーツ界の未来を信じていたひとりと言えるかもしれない。これからもリアリティの向う側にある明るい可能性を描き続けてもらいたいところだ。

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