『ぼっち・ざ・ろっく!』担当編集・瀬古口拓也インタビュー 「4コマ雑誌「きらら」の固定観念を払拭する企画を出し続けてきた」
近年のアニメーション界を席巻する超話題作になった、はまじあきの漫画『ぼっち・ざ・ろっく!』。昨年12月24日にはアニメーションが最終回を迎え、いまだにその話題を聞かない日はないのだが、「陰キャならロックをやれ!」というインパクト爆発のキャッチコピーや、王道を行く主人公の後藤ひとり(ぼっちちゃん)の成長物語が多くの感動を呼んだ。
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【漫画】単行本は品薄になるほど人気となった『ぼっち・ざ・ろっく!』を試し読み
そんな名作に立ち上げから関わったのが、「まんがタイムきららMAX」編集長代理の瀬古口拓也である。2012年の入社以来、「きらら」一筋の瀬古口に、『ぼっち・ざ・ろっく!』ヒットの理由から「きらら」という雑誌の特徴まで、濃密なインタビューを敢行。漫画界を牽引する雑誌の魅力に迫った。
歴史的ヒットの要因はどこにある?
――『ぼっち・ざ・ろっく!』大ヒットおめでとうございます。歴史的な売れ行きと言うことで重版が続いていますが、それでもいまだに書店では品薄状態です。
瀬古口:ありがとうございます。『ぼっち・ざ・ろっく!』は、「きらら」のファンはもちろんですが、弊社の漫画を知らなかったみなさんにも知っていただけた点で、理想的な形のヒットだったと思います。
――ヒットの要因はどこにあったと思いますか。
瀬古口:「きらら」は4コマ雑誌ですので、基本的にはギャグで笑えるものにしたい、読んでいて気持ちのいい話にしようという思いで作っています。そうした「きらら」というブランドが持っている良い側面が出た作品だと思います。そして、話が進むにつれ、本格的な青春漫画になっていますし、音楽漫画としても読みごたえのあるものになっています。癒し系の作品を求めているという需要や、成長物語を読みたいという需要、そして音楽漫画のファンも取り込めたのが良かったと思っています。
――『ぼっち・ざ・ろっく!』はキャラクターのかわいさや、いろいろ楽曲を売り出せそうな設定など、メディアミックス向きの作品ですよね。
瀬古口:はまじあき先生はギャグ漫画が得意で強かったのですが、『ぼっち・ざ・ろっく!』のアイディアを持ってきたときは、「あ、これは勝ち筋が見えるなあ」と思いました。いつアニメ化されてもおかしくないような、映像映えしそうな設定でしたからね。
――連載を始める前にマーケティングなどは行ったのですか。
瀬古口:いえ、当社は小さな会社なので、事前に世相を調査するマーケティングの部署がないんです。連載が始まるとTwitterなどSNSの反響を見てはいますが、正直、ヒットするかどうかはコミックスが出るまで賭けですね。ありがたいことに想定以上のヒットとなり、驚いています。
「きらら」ってどんな雑誌?
――現在、芳文社さんの4コマ漫画雑誌には「まんがタイムきらら」があり、その姉妹誌として「まんがタイムきららキャラット」「まんがタイムきららMAX」「まんがタイムきららフォワード」がありますね。掲載作品は「きらら系」と呼ばれることがあります。各誌の特徴を一言で言うなら、なんでしょうか。
瀬古口:基本的に「きらら」はオタク向け雑誌であるという理念は、ぶれずに存在しています。僕が入社したころは、「きららMAX」は実験場と言われていて、挑戦的なことをしていく雑誌という風潮がありました。「キャラット」は創刊当初は女性読者も意識していたともいわれます。ただ、現在では各誌どういう方針で、どんな漫画を作ろうという方針は特に固定されてはいません。
――読者の年齢層はどのような感じでしょうか。男女比なども知りたいです。
瀬古口:「きらら」の読者層は20~30代の男性オタクのみなさんが中心です。9割くらい男性でしょうかね。この比率は、創刊以来それほど変化していないと思っています。ただし、漫画家さんの男女比は半々ですね。
――創刊以来、オタク向けという軸がぶれていないのが、「きらら」の強みかなと思いました。
瀬古口:オタク向けの漫画が、2010年代前後を境に一般化していきましたからね。価値観の多様化もありますし、『けいおん!』などのヒットもあり、一般層のアニメ絵に対する忌避感がなくなったことも大きいと思います。
――私の友人の子どもは小学生ですが、「きらら」の漫画を読んでいます。
瀬古口:子ども向けに作っていないので大丈夫かなと思うのですが(笑)、小学生の読者からアンケートはがきやファンレターも来ますので、名誉なことだと思っています。子どもと4コマ漫画って親和性が高いんですよ。ご存じだと思いますが、我々が子どもの頃って、『ドラクエ』や『ポケモン』の4コマが人気だったじゃないですか。ああいうゲーム系の4コマは、きらら系の源流なんですよ。実際、「きらら」の初期には、ゲーム系4コマ出身の漫画家がいらっしゃいました。
「きらら」のイメージを払拭したかった
――瀬古口さんは編集者として、どのような仕事をしているのでしょうか。
瀬古口:漫画家さんと打ち合わせして連載を立ち上げ、単行本を出すという、漫画編集者の基本ですね。同人誌即売会などで、気になった漫画家さんに声を掛けることもあります。誌面は僕が台割も切っているので、読切を載せて反響が良ければ連載にする、という決定にも関わっています。単行本化の際のデザイン回りの調整や、広告のキャッチコピーも各編集者が作成しています。いろいろな仕事がありますが、他社さんよりも1人の編集者の仕事の幅が広いと思っています。
――瀬古口さんは東京大学の漫画研究会の出身だそうですが、芳文社に入社されたきっかけは何だったのでしょうか。
瀬古口:僕が入ったのは2012年で、出版社を何社か受けたうちの一社です。この頃は『ひだまりスケッチ』や『けいおん!』のヒットがあり、「きらら」が活気づいていたので魅力を感じました。「きらら系ってこういう感じだよね」という世間的なイメージも醸成されつつあった時期です。しかし、特にアニメファンが語る「きらら系」という言葉には、ネガティブなニュアンスも込められていると感じていました。
――今では考えられないことですが、2010年前後までは「きらら」は漫画好きから蔑視されていた印象もありますよね。アニメ化された作品も増えていましたが、「キャラがかわいいだけだ」「漫画としては読めたものじゃない」という批評もあったように記憶しています。
瀬古口:そうしたイメージを覆す作品を立ち上げたいと思っていました。僕が立ち上げた『ステラのまほう』も、序盤こそ同人ゲームを作る女子高生のキラキラした物語なのですが、話が進むにつれ、高校生らしい人生の悩みにぶつかる場面も描かれていきます。
――読み進めるとどんどん本格的な漫画になっていく。『ぼっち・ざ・ろっく!』にも共通しますね。
瀬古口:そうですね。『ぼっち・ざ・ろっく!』も基本的にはギャグ漫画ですが、今はぼっちちゃんやバンドメンバーの成長物語という側面も強いですからね。女の子の絵がかわいい漫画だと思って買ったら、ストーリーでも読みごたえのある漫画だったというイメージとのギャップも、評価していただけている要因かなと思っています。