正式名称ではない「ゴキブリ」、村の名が全国区になった例も……忘れ難き”教科書の誤り“を振り返る

Tamara Gak/Unsplash

 東京書籍が発行した高校生向けの教科書『新高等地図』で、約1200ヶ所の訂正が発覚したと、読売新聞社が報じた。2022年4月から既に約3万6000冊が使われていたが、東京書籍は訂正を行ったうえで教科書を再配布しているという。なお、同書は文部科学省の教科書検定にも合格しているが、その信用を揺るがす事態となっている。

 読売新聞社によれば、“ドレーク海峡”を“マゼラン海峡”と誤記したり、“陝西省”を“山西省”と表記するなど地名そのものの間違いや、社会情勢に伴う名称変更が反映されていなかったり、索引のページが間違っているなど、数々の誤記・誤植が判明しているという。これでは教科書として使用できない状況といえる。

 東京書籍は、過去にも中学校公民の教科書で有名な誤植を行っている。平成14年(2002)に新潟県中里村(現:十日町市)の「中里村雪国はつらつ条例」を「雪国は“つらいよ”条例」と誤植した例である。塾講師が問い合わせて発覚したというが、それまで誰も気づいていなかったのだろう。こうしたインパクトの強い誤植ほどなぜか発見されにくいことがあるが、それにより知名度を上がることに貢献してしまったことは、出版界あるあるでもある。

 誤植といえば、アーケードゲーム雑誌「ゲーメスト」が有名だろう。「インド人を右に!」や「ザンギュラのスーパーウリアッ上」「確かみてみろ!」などは歴史に残る誤植といえるが、雑誌の性格上、読者も誤植をエンタメとして楽しむ風潮があった。また、『ジョジョの奇妙な冒険』のジョナサン・ジョースターのセリフ「何をするだァーッ!」のように、ファンから愛される誤植もある。

 こうしたゲーム雑誌や漫画の誤植なら笑って楽しめるかもしれないが、やはり教科書の誤植は慎重であるべきだろう。例えば、ゴキブリはもともと“ゴキカブリ”が正式名称だったが、明治17年(1884)に出版された『生物學語彙』に“ゴキブリ”と誤植され、その後の教科書が誤植を正式な和名と信じ込んで掲載、いつの間にか間違いが定着してしまったという例もある。

 NHK『プロフェッショナル 仕事の流儀』で校正者の大西寿男が特集されたり、Twitterで新潮社の校閲部の仕事が話題になるなど、校正や校閲の仕事に注目が集まっている。そんな中で、『新高等地図』の約1200ヶ所の訂正は近年聞いたことがないレベルだ。東京書籍は編集体制を見直すなど、再発防止に努める必要があるのではないだろうか。

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