最強ボクサー・井上尚弥が『はじめの一歩』の世界にいたら? 夢のマッチメイクを考察
最近、スポーツ界で「漫画」を超えるような出来事が相次いでいる。野球界では大谷翔平が二刀流でメジャーリーグを席巻、サッカーにおいては2022年カタールW杯で日本代表が優勝経験国のドイツ・スペイン両国を撃破、NBAからも渡邊雄太・八村塁という日本人プレイヤーの活躍が日々伝えられるなど、少し前なら漫画で描いたとしても「できすぎ」と思われそうなトピックが少なくない。
昨年12月、WBO世界バンタム級王者のポール・バトラーを一方的な展開でKOし、歴史に名を刻む四団体統一王者となった最強ボクサー・井上尚弥も、すでに「漫画」を超えていきそうな生ける伝説だ。そんな彼が、現行のボクシング漫画としてトップを走る人気作『はじめの一歩』(森川ジョージ)の世界にいたとしたら、やはり圧倒的な強さでチャンピオンになるだろうか。
結論から言うと、現在までの階級では負ける姿が思い浮かばない。というのも、『はじめの一歩』は主人公の幕之内一歩がフェザー級であり、井上がこれから挑むスーパーバンタム級の一階級上だ。そのため、人気キャラクターはフェザー級以上に多く、バンタム級以下の状況についてはほとんど謎に包まれている。そのなかでヒントになりそうなのは、作中最強クラスの鷹村守がWBC世界ミドル級王座の初防衛戦に挑んだその日、セミファイナルで行われたバンタム級の世界戦だ。
挑戦者は28戦28勝20KOと、戦績の面では井上尚弥と比較的近い(※井上は24戦24勝21KO)バンタム級世界ランカーの石井裕太。「日本で最も世界に近い男」と言われるベテランで、強者の雰囲気は十分だったが、結果として2R2分7秒でKO負けを喫し、一歩たちに世界の広さと遠さを痛感させていた。
試合の具体的な描写はないものの、チャンピオンはずっしりとした体型からハードパンチャータイプで、無邪気に喜んでいる表情から比較的若い選手と予想できる。相当の強者のはずだが、試合がセミファイナルで組まれていることからも、バンタム級王座を全てKOで統一した井上尚弥以上の実績があるスター選手だとは考えづらい。井上がバンタム級王座に初めて挑んだ時点(2018年5月25日)で考えても、6度の防衛に成功していた王者ジェイミー・マクドネルに対し、実に1R1分52秒でTKO勝利を収めていること、そこに“主人公補正”すらありそうなスター性を加味すれば、やはり勝利しそうだ。
それでは、井上尚弥がフェザー級に挑戦したらどうだろうか。例えば、井上と一歩は身長がほぼ同じで、体格的な優位性はどちらにもない。お互い、キャリアのどの時点での試合を想定するかにもよるが、総合力では井上が圧倒的に優っているように思える。ポイントは、一歩のあまりに強力なパンチがヒットするかどうか。どこかでまともに一撃入り、必殺のデンプシー・ロールに巻き込まれるようなことがあれば、いかに井上でも無事では済まないだろう。ただ、そもそも一歩は“負けない主人公”ではなく、単純な勝利以上のメッセージを届ける存在なので、井上の強打を受け続けながら最後まで耐え切り、判定負けするという世界線もあるかもしれない。
その他、一歩のライバル・宮田一郎ならカウンターの撃ち合いに見応えがありそうで、千堂武士との足を止めた殴り合いも見てみたいが、夢のマッチメイクと言えるのはやはり、68戦68勝64KO、7年間で21度の防衛に成功しているフェザー級史上最強の王者、リカルド・マルチネスとの一戦だろう。当初はどうしようもないチート級キャラクターというイメージもあったが、直近の試合を含め、スタイルや人間性も少しずつ明らかになっており、「つけいる隙が全くないわけではない」という印象も出てきた。そこに現在のノリに乗った井上が挑む形なら、(スーパーバンタム級を制覇した前提になるが)おそるべき5階級制覇が達成される可能性はあるだろう。あらゆる基礎値が極めて高い“総合力お化け”といえる二人の試合は、名前の派手さとは裏腹に玄人好みの一戦になりそうだ。
さて、階級を度外視すれば、井上とのマッチメイクが見てみたいもう一人の“作中最強ボクサー”はやはり、鷹村守だろう。以前から井上を“リアル鷹村”と評する声もあり、感情の燃やし方はリカルドよりむしろ、鷹村に近いと思わされる。KO率の高さからパンチの強さに注目がいくが、実はテクニックにも優れた二人。「漫画の力」で階級が揃えられたとして、ド派手な試合になることが予想され、最後は気持ちのぶつかり合いになるかもしれない。
真剣に考えていると、むしろ井上尚弥こそが漫画の世界から飛び出してきたスーパースターに思えてくる。次はどんな競技にどんな“漫画級”の選手が登場するか、楽しみに待ちたい。