【LINEマンガ】話題のwebtoon『喧嘩独学』は何がスゴい? 痛快なリベンジ・下剋上が見られる“冴えないヒーロー”の物語


 世界的に注目を集め、日本でも加速度的に認知を広げている縦読み&フルカラーの新たなマンガ表現「webtoon(ウェブトゥーン)」。その人気を牽引してきた作品のひとつが、Netflixで映像化された『外見至上主義』でも知られるスター作家・T.Junがストーリーを手がける『喧嘩独学』(LINEマンガで独占配信中)だ。

 日本国内での累計閲覧数は2023年1月現在で3億3500万回を超え、昨年は第25回文化庁メディア芸術祭・マンガ部門で「審査委員会推薦作品」に選出。大手出版社の作品と比較してメディア露出が限定的ななかで、読んだことがないというマンガフリークもまだ多そうだが、作品としての純粋な面白さで読者層を拡大し続けている力強さがある。内容は、痛快なリベンジ/下剋上が見られる“インフルエンサー・アクション”作品だ。

 主人公は、母子家庭で母親は病床にあり、貧しい生活をしている志村光太。体も弱く、学校ではいじめを受けている。その相手は、動画配信サービス「ニューチューブ」で人気を博している「ニューチューバー」で番長のハマケン。光太に恥をかかせる動画で、昼休みに小遣い稼ぎだ。一方の光太は生活費だけでなく母親の入院費も捻出しなければならず、借金もあって家計は火の車。母親に対しての心ない言葉を浴びせられてもやり返すことができず、自己嫌悪に陥っていたーー。

 嘘と暴力で人気と金を集めているハマケンと、不遇な光太のギャップがやり切れない。そんななかで、光太に人生を逆転させる千載一遇のチャンスが訪れる。

 ある日、ハマケンの“手下”として撮影や編集を手がけるカネゴン(金子)に無理やり手伝わされ、自宅で動画配信をサポートしていた光太は、配信中にミスでPCの配線を切ってしまう。当然、カネゴンに詰め寄られるが、強いものに取り入ってきただけで、ケンカは強くない。母親への侮辱の言葉をきっかけに切れた光太は、初めて拳を振るい、弱いもの同士の殴り合いに発展する……のだが、実は配線が切れていたのはPCのモニターだけで、その情けないケンカはウェブカメラを通じて全世界に配信され続けていたーー。

 ケンカのアーカイブ動画がバズりにバズり、光太の人生は劇的に変わっていくことになる。SNSや動画配信という現代的な要素が違和感なく生かされているのが、人気webtoonのひとつの特徴になっているが、その先駆けとなったのが『喧嘩独学』だ。収益化の苦労やバズを起こし続けるためのポイント、“迷惑系”の思考回路に“暴露”の威力まで、当然エンタメとして誇張されたものではあるが、リアリティが感じられる。調子に乗ると痛い目に遭う、というインフルエンサーの教訓も描きながら、ちゃんと熱く、ちゃんとスカッとするリベンジが描かれていくのが楽しい。

 読み始めたら止まらなくなる中毒性を持った作品なので、ネタバレは最序盤にとどめるが、お金は欲しくても「ニューチューバー」として成功する術を知らない光太をブレーンとして助けるのが、誰あろうカネゴンだ。ケンカの弱いことが知られてしまい、スクールカーストは急降下。しかし、番長・ハマケンのチャンネルを裏方として成功に導いた手腕は伊達ではない。隠し撮りのライブ配信でハマケンの悪事を暴き、光太の“演者”としての意外なポテンシャルと度胸もあって、「弱者が悪者を倒す」というコンセプトで人気を拡大していく。卑屈で守銭奴な光太と、日和見で悪知恵の働くカネゴンは、純粋な善人でもスーパーヒーローでもない。しかし、この泥くさく生きる二人の友情が、ときに感動を呼び、ときに大きなカタルシスを感じる物語を広げていく。

 断っておきたいのは、誰でもインフルエンサーを目指せる現在、誰でもこうやってリベンジを果たせる……という、やや危険なメッセージはまったく含まれていないということだ。タイトルの『喧嘩独学』は光太のチャンネル名だが、自分より強い相手に立ち向かうためになんとか強くなりたいと願った彼が辿り着いた、謎のチャンネルに由来している。「闘鶏」を名乗るマスターの動画は作者の格闘技に関する豊かな知見が生かされた内容で、戦術的な説得力がある一方、きちんと「努力」が求められるのが印象的だ。

 また、このチャンネルとの出合いをはじめ、本物の親友になっていくカネゴン、同級生で総合格闘技界の新星・扇達也、元バイト先のマドンナで光太を気にかけてくれる朝宮夏帆や、格闘技に詳しく動画編集者としてチームに加わる愛らしい後輩・八潮秋など、実は人と環境に恵まれているからこそできるチャレンジであり、成長なのだということがわかる。決して品行方正とは言えず、打算的だったりヘタレだったりする光太だが、彼のタフさを支えているのはお金への執着よりも友情や愛情であり、それを守るための「正しさ」だ。本作が伝えているのはリベンジの方法ではなく、悪意に負けない心の持ち方や、より大切な人との関係性だといえる。

 キャラクターのビジュアルもよく、推しキャラクターに迷うのも楽しい『喧嘩独学』。リベンジ/成り上がり系の作品が好きな人、インフルエンサービジネスに興味がある人やはたまた異種格闘技や緊張感のあるバトルが見たい人、泥くさく生きる“冴えないヒーロー”の物語を楽しんでみてはいかがだろう。

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