人間椅子・和嶋慎治、初小説で新たな扉を開く「文章で創作するのは子どもの頃からの憧れでした」

人間椅子・和嶋慎治、初小説を語る

 海外にもファンを持つハード・ロック・バンド「人間椅子」。1990年にメジャーデビューし、30年以上の歴史を持つ彼らは、江戸川乱歩の短編のタイトルをバンド名にしたほか、初期から小説にちなんだ作品を多く発表してきた。それに対し、人間椅子の怪奇と幻想に彩られた楽曲を、作家たちが小説化したのが『夜の夢こそまこと 人間椅子小説集』(KADOKAWA)である。このアンソロジーには、人間椅子でギターとボーカルを担当し、作詞・作曲の中心でもある和嶋慎治氏の初小説も収録されている。加えて、自伝エッセイ『屈折くん』が今年文庫化(角川文庫)された和嶋氏に、これまでどのように言葉を紡いできたか、ロック×文芸の道について聞いた。(円堂都司昭/12月12日取材・構成)

共通のテーマは死と子ども


――人間椅子小説集の企画と、和嶋さんの小説初執筆とどちらの話が先だったんですか。

和嶋:小説集の企画が先でした。KADOKAWAさんから「人間椅子の楽曲を使った形で本を作れないか」と打診があって編集部と話したら、僕らの曲を好きな作家さんもいるという。それなら、曲をただ解説するのではなく、曲にちなんだ小説を書いてもらって本にするのがいいとなって、「メンバーにも、なにかの形で協力いただきたい。できたら小説を書いてもらえると」と早い段階で言われました。

 自分に書きたい気持ちはありましたけど、プロ作家のなかにいきなり新人が、というか、小説デビューもしていない人間が混ざるのは、相当ハードルが高い。その点は大丈夫ですかと、編集さんに何度も聞きました。僕は『屈折くん』という自伝を出していたので、KADOKAWAさんはある程度の文章量は書けると見込んだんでしょう。僕は、短編だったら可能かなと、チャレンジのつもりでお受けしました。

 ――実際に集まった小説にどんな感想を持ちましたか。

和嶋:子どもみたいな感想ですけど、プロってすごい。みなさん、賞をとっているでしょう。

――今回、「地獄のアロハ」(コラボユニット「筋肉少女帯人間椅子」の同名曲/2015年)を書いた大槻ケンヂ氏は星雲賞、「なまはげ」(曲はアルバム『無頼豊饒』に収録/2014年)の伊東潤氏は吉川英治文学新人賞や山田風太郎賞など多数、「超自然現象」(『異次元からの咆哮』/2017年)の空木春宵氏は創元SF短編賞佳作、「遺言状放送」(『桜の森の満開の下』/1991年)の長嶋有氏は芥川賞や大江健三郎賞など、みなさん受賞しています。(伊東潤氏は以前、人間椅子から影響を受けたプログレ・バンドの金属恵比須ともコラボ)

和嶋:秀でた方々だと思うんです。曲で小説を書くとなれば、凡庸な人はその世界観をなぞるでしょうが、そうならない。歌詞という材料を自分なりにまったく違うように料理する。

――本ではそれぞれの小説の前に歌詞が掲載されているので、違いがよくわかります。

和嶋:僕は小説からアイデアをもらって曲を作りますけど、小説のまんまにならないようにします。それをやっちゃうと、原作を読んだ方がいいとなっちゃう。逆に曲から小説を書く場合もそうなるんですね。それがオリジナリティであり作家的視点なんでしょう。

――和嶋さんは「暗い日曜日」(「怪と幽」vol.011、2022年9月初出。曲はアルバム『踊る一寸法師』に収録/1995年)を書かれたわけですが、他の方の作品を読んでから書き始めたんですか。

和嶋:いや、影響されるので、事前に読まないようにしました。読んじゃうと、その方法論に寄せるか、あるいは逆のことをやるかもしれないし、どちらでも意図的にそうするのはよくないと思って、自分が書き終わってから他の方の作品を読もうと楽しみにしていました。

――この本に関する別のインタビューで、死と子どもが収録作に共通したテーマだったと話されていましたね。

和嶋:作風はまったく違うけど、死をどう扱うかというテーマが全作品の根底に流れていて、自分たちの楽曲にそういうところがあって伝わったのかと思いました。あと、各作品に子どもが出てきますけど、大人に対するアンチテーゼというか、大人とはいったい何なんだろうという共通のテーマを結果的に語っているなと感じました。

――収録作家への依頼では、テーマ設定はしなかったんですか。

和嶋:しませんでした。自分が小説を題材に曲を書く時も自由にやろうとしているわけで、お題やルールで縛らない方がその人の個性が出ると考えました。

ポーのオマージュをやりたくなった

――和嶋さんの「暗い日曜日」も死と子どもを含んだ作品です。小説を公に発表するのは初ですけど、高校時代にも書いたことがあるそうですね。

和嶋:高校の頃、文芸部に入って習作みたいなものを書いたんですが、今回はそれ以来です。創作をするのは、二の足を踏んでいたんです。大変だろうし、そのスイッチを入れるのが怖かった。一度入れてしまうと、作家的なことに注力したくなるはずだから。もちろん音楽がやりたくて今もバンドをやっているわけですけど、文章で創作するのは子どもの頃からの憧れでしたし、いったんやり出したら自分の性格では妥協できないだろう。つまり、今後の人生でリタイアできなくなる(笑)、なまけられなくなる、しんどくなる。でも、スイッチを入れてしまった。今回の企画は、その後押しをしてくれたんだと感謝しています。

――「暗い日曜日」を書かれましたが、他にも小説にする曲の候補はあったんですか。

和嶋:迷いました。「猟奇が街にやって来る」(『人間椅子』/1989年)も考えましたが、不謹慎な内容になると思い(と話しつつ創作メモの書かれたスケッチブックを広げる)、「鉄格子黙示録」(ボーカル入り完全版は2009年の『人間椅子傑作選 二十周年記念ベスト盤』収録だが高校時代の作曲)にしようとしたんです。

 今回の小説集では純文学っぽく書いたら浮くと思った。我々の楽曲がそういう風なタイトルではないので、娯楽的要素があるものをみなさんは書いてくると予想しました。だから「鉄格子黙示録」でディストピアみたいなものを書こうとしたんですが、この曲だと正気を失った人の口を借りて一方向に喋ることになってよくない。何かしら現在の世界に抵触することを書いてしまいそうでヤバイ(笑)。

「暗い日曜日」でやるなら、もうちょっとふんわり客観的に書けるかと考えたんです。「暗い日曜日」は青春の鬱屈というか悶々とした曲で、普通に聴くと普通の青春小説になる。それをあえてSFで書くのが面白いんじゃないか。そのディストピアが良いか悪いかは読者の判断とする方がいいし、抽象的なタイトルの方がいいと思ってこの曲にしました。


――メモはふだんからスケッチブックに書いているんですか。

和嶋:歌詞も小説も、アイデアは常にそうしています。パソコンだとワンステップあるでしょう。メモだと、思いついたら見なくても書けるというか、やっぱり手で書いた方がいい。

――「暗い日曜日」の小説中には「モレラ」という名が出てきます。これは、江戸川乱歩のペンネームの元となったエドガー・アラン・ポーの作品に由来するものですね。

和嶋:書いているうちにポーのオマージュをやりたくなって「モレラ」を入れたり、『陥穽と振子』のオマージュを入れたり。

――『夜の夢こそまこと』という本のタイトルは、乱歩の「うつし世はゆめ 夜のゆめこそまこと」という有名な言葉からとられた。

和嶋:乱歩がいいと編集さんの提案もいただいていました。

担当編集:人間椅子には『現世(うつしよ)は夢』というベストもありましたので。

和嶋:それと対になる感じがいいなと思いました。

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