『ブルーロック』最新のキーワードは“主人公感” テクニックよりメンタル重視の説得力を考察

『ブルーロック』の新たなキーワード“主人公感”

 「週刊少年マガジン」にて連載中で、10月よりテレビアニメが好評放送中のサッカー漫画『ブルーロック』が「主人公感」という新たなキーワードを軸に熱い展開を見せている。

 世界的な人気も高く、現在開催中のW杯においても日本代表の「得点力/決定力」が語られるとき、海外でも引き合いに出されることがある本作。日本代表が少ないチャンスをものにし、ジャイアントキリングを起こしたドイツ代表戦に関連して、「“ブルーロックプロジェクト”は本当に進行していたのか」のような趣旨のコメントも、ネット上で散見された。

 念のため簡単に説明しておくと、『ブルーロック』は「史上最もイカれたエゴイストFWサッカー漫画」というキャッチコピーで知られ、将来有望なユース年代のストライカーを監獄とも呼ぶべき施設に集め、競争を煽り、日本から世界一のストライカーを輩出する……という、刺激にあふれた内容の作品だ。もともと特筆すべき能力はないように見え、空気を読むタイプの主人公・潔世一がエゴイスティックなFWに覚醒していくなかで、技術的な気づきはもちろん、メンタルの変化が大きな要素として描かれている。

 「挑戦的集中でフロー状態(FLOW)に入る」と言われても、心理学や自己啓発に関心がない読者には伝わりにくいところだが、本作では選手のパフォーマンスを劇的に上げるメンタルの状態として位置づけられている。あるいは、ブルーロックプロジェクトを主導する絵心甚八は勝負を左右する「運」という要素について、「降ってきてから考えたってもう遅い」と、「偶然」に対する心構えができている者だけがつかめる「必然」として、再現性のあるものだという考えを語る。いわゆる“ごっつぁんゴール”も、精度の高いポジショニングとともに、こぼれ球に反応する準備ができている選手が必然的に決めているものだ……と考えれば、なぜか“運のいいゴール”を量産するプレイヤーがいることに説明がつくかもしれない。

 さて、そんななかで登場した最新のキーワードが「主人公感」だ。本作の主人公である潔は、自分の理想にしがみつき、精度の低いプレイを繰り返す現在のチームメイト・雪宮に対し、「一人で気持ち良い夢抱いて 沈んでイッてろドロ船が」と切って捨てる。絵心も「成功は 自分だけの物語に酔う人間には訪れない」としており、これは心理学者アルフレッド・アドラーが言う、「あなたのために他人がいるわけではない」(それぞれが人生の主人公である)という考えに通じる思考だ。

 潔はそのなかで、「自分の物語を信じて突き動かす精神性」を「主人公感」という言葉にして、人間のトップパフォーマンスに必要不可欠なものだと思い至る。同時進行中のスピンオフ作品を考えれば分かりやすいが、ライバルたちもそれぞれ“主人公”であり、雪宮を自分の物語の脇役扱いしていたことを「俺の思考が浅かった」と自戒するのだ。これが先週号までの展開で、実に2話というスピードで描かれている。

 必ずしも合理的に説明がつかない、それぞれの“主人公感”を分析し、その思考の交差点から逆算することで、スーパープレイを阻止することもできれば、スーパーゴールを決めることもできるーー現実の競技においてこの思考が成果を上げるかはわからないが、エンタメ作品として考えれば、他人のエゴすらピースにして最高のプレイを生み出そうとするメンタルは、小手先のテクニックより状況を打開する武器として説得力がある。

 そのなかで潔は、どのようにして自分を主人公に置き、結果を残すのか。今週号から次号にかけて、ひとつの山場が描かれそうだ。

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