凶暴化した850頭のサルが親子に襲いかかる……! 猿と人間の壮絶バトルが恐ろしい

凶暴化した850頭のサルが親子に襲いかかる……! 猿と人間の壮絶バトルが恐ろしい

 凶暴化した850頭のサルが親子に襲いかかる……!

 Twitterで『猿と人間』(宝島社)の宣伝が流れてきたとき、筆者は絶対に買おうと心に誓った。というのも、本書の著者は増田俊也。あの、動物愛護と自然の無慈悲さ、人間の愚かさを血生臭く描いた衝撃作『シャトゥーン ヒグマの森』(宝島社)の増田俊也だ。

 それに、筆者はサルの集団に襲われかかったことがある。そのときの恐怖を思い出すと、著者の目の付け所の良さに改めて興奮せざるを得ない。

 というわけで、今回は増田俊也のひさびさのアニマルパニック『猿と人間』について熱量高めで語っていきたい。

小さくてもサルは怖い。大きいならさらに怖い

 サルに襲われる人間を描いたサバイバルサスペンスといえば、謎の大猿に襲われた人たちの悲劇と薬害問題を描いたゴアサスペンス漫画の『モンキーピーク』(日本文芸社、原作:志名坂高次/作画:粂田晃宏)を思い出す人が多いかもしれない。あれは大猿の正体を解き明かすミステリー要素も強かったが、『猿と人間』はニホンザルと限界集落に集まった人々の存続をかけた地に足ついたゴアサスペンスホラーだ。

 襲ってくる動物がニホンザルだと迫力に欠けると思われるかもしれないが、そんなことはない。

 前述の通り、筆者は、かつて住んでいたマレーシアで当時2歳だった息子とともにニホンザルとさほど大きさが変わらないカニクイザルの集団に襲われそうになったことがある。詳細は省くが、2つの群のボスザルと思しき個体が歯茎を剥き出しにしながら肩をいからせ、全身の体毛を逆立ててゆっくりと近寄ってきたときの恐怖は忘れない。近くで餌やりをしていた男性が、ムチで追い払ってくれなかったら大怪我をしていただろう。

 だから、体は小さくとも、野生動物であるサルが怖いのは身をもって知っているつもりだ。しかも、『猿と人間』のサルたちは、寒冷地域で生まれた大型個体を掛け合わせて人工的に大型化したサルを含む850頭。サルの脅威にさらされるのは、限界集落に住む老婆や、カモ猟にやってきた親子、サルの研究者といった、大した武器もなければ、戦闘準備もしていない弱き者たち。絶体絶命、悲惨な展開にならない方がおかしい。

 そして筆者の想像通り、サルの攻撃が始まった瞬間から、周囲に血の匂いが漂い出すようなゴア展開の連続だった。

先祖との戦い

 『猿と人間』の面白さと魅力はサスペンスやホラー要素にとどまらない。サルとニンゲンとは、つまり、先祖と進化したものの戦いとも捉えることができるからだ。

 ニンゲンは進化の過程で脳が大きくなり知能が発達した一方で、野生で生き延びるための身体能力を失っていった。厳しい寒さから守ってくれる豊かな毛も、硬い皮膚もない。二足歩行では速く走れないし、そもそも靴がなければ歩くこともままならない。殺傷能力の高い武器がなければ、本気になったサルと対峙するなど到底不可能だ。 一方のサルは、ニンゲンほどではないにせよ環境に適応した進化を続けているし、なにより身体能力がニンゲンのそれを遥かに凌駕する。サルの攻撃を読むたびに、自然の中ではニンゲンがどれほど無力なのかを痛感させられるし、ニンゲンの進化の目的すら考えさせられる。

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