映画『SLAM DUNK』CGアニメに賛否 “ファンの手描きへの思い入れ”と“制作陣の漫画との共存へのこだわり”は決着する?
11月4日に予告編が公開され、12月3日の公開に向けて大きな盛り上がりを見せているアニメーション映画『THE FIRST SLAM DUNK』。テレビアニメ版から一新したボイスキャストについての議論とともに、賛否の声が聞こえるのが、3DCGを活用した作画だ。
原作の漫画『SLAM DUNK』が現在もデジタル配信されていないことからもわかるように、作者・井上雄彦氏は“紙と手描き”のフィジカルなアートにこだわる作家として知られる。本人の監督作品ということもあり、CGを使わず手描きを主体としたアートワークになることを期待した一定数のファンにとって、予告編の映像は違和感を覚えるものだったようだ。
現在、YouTubeではテレビアニメ版『SLAM DUNK』の本編が期間限定で公開されている。こちらをあらためて観てみると、確かに、随所に“90年代のアニメ”然とした懐かしさを覚えるし、「バスケの動き」として違和感のあるシーンも少なくないが、いまも熱中できるクオリティだったことに気付かされる。放送開始が1993年10月と、もう30年近く前のアニメであり、声優をオリジナルキャストで、というのはさすがに無理があるように思えるが、現在の作画技術で、セルアニメとしての『SLAM DUNK』を観てみたい、というのは、「懐古趣味」と切って捨てることができない、ファンの思い入れかもしれない。
しかし、同時に予告映像で注目したいのが、原作と比較してまったく違和感のないキャラクターの表情や、手描きのような温かみのある質感だ。
映画『THE FIRST SLAM DUNK』公式サイトにおいて、本作で演出を担当している宮原直樹氏は、井上監督の「ツルツルしてない。ざらっとしてる」という言葉をキーワードとして挙げている。また美術監督の小倉一男氏は、「リアルな背景描き込みというよりは、マンガが動いてる感じ」という指示を受けたことを明かしており、CGによるリアルかつ滑らかな描写と、漫画ならではのざらついた質感を共存させるため、心を砕いてきた経緯がわかる。
そもそも『SLAM DUNK』という作品自体、それまでヒット作の乏しかった「バスケ漫画」というジャンルへの挑戦であり、その果実を現実の競技シーンに還元する「スラムダンク奨学金」という取り組みも含めて、連載終了後もチャレンジを続けてきた作品だ。一方で、前出のように「紙の本」へのこだわりを持ち続け、デジタル配信が行われていないことから、「革新」と「伝統」の両側面を大事にしながら、多くのファンに愛されてきた名作だと言えるだろう。だからこそ、新たなビジュアルを喜ぶファンもいれば、変化に違和感を覚えるファンもいるのではないか。
井上雄彦氏は10月20日、自身のブログに「知らない人には初めての、知ってる人には、知ってるけど初めて見るスラムダンク。そんな感じで気軽に楽しんでもらえたら嬉しいです」と綴っている。賛否両論の議論も作品を盛り上げる彩りにも思えるが、まずは劇場で、本作をじっくり楽しみたいと思う。