『明日カノ』12巻発売 無敵だったあの頃を経て、40歳・独身、実家暮らし……自分の人生どう生きる?
現代社会を生きる女性をリアルにとらえた人気漫画『明日、私は誰かのカノジョ』の最新刊が、10月19日に発売された。この12巻のヒロインは、10代でヴィジュアル系バンドに熱中し、スピリチュアルに依存する畔上江美。父親の死をきっかけに田舎にある実家に戻り、長く働いた水商売から卒業することを決意するが――。40歳になった江美の生活と心情が描かれる。
『明日カノ』の中でも12巻には、さまざまな世代の女性が登場するのが特徴といえるだろう。江美が働くことになるスナックには自分より一回り年上のママや、20代の女の子がいる。さらに若い頃、一緒にヴィジュアル系にはまった友人・サチコとの再会もある。サチコは夫と子どもがいるのに対し、江美は結婚も出産も経験がない。そうした年齢や立場の異なる女性にコンプレックスやマイナスな感情を抱くものの、マウントバトルなどに発展するわけではなく、一貫してフラットな視点で彼女たちの関係性が描き抜かれている。その“リアルさ”が、『明日カノ』の魅力の一つ。
リアルというと、登場人物の言葉など直接的な表現でなく、巧みな小物使いで時代背景や心情を映し出しているのも見どころだといえる。LINEのメッセージ画面、携帯のバッテリーのカバーの裏に貼ったプリクラ、転職活動の履歴書の資格欄(11巻より)など……語られていないことまでもが、小物を通して透けて見えるのがおもしろい。細部まで丁寧に描かれている。
ヴィジュアル系にはまって、恋愛相手に依存し、占いを頼り、なんとなく水商売を続けてきた江美。モラトリアムを引き延ばして年齢を重ねてしまった彼女が、地元に帰ってはじめて自分の人生と向き合わなければいけなくなった。江美は完璧な人間ではないが、人は誰しも完璧でないはず。一見ちゃんと働いているように思われる大人でも、内側に“未熟な自分”を抱える人は少なくないだろう。そんなところが、『明日カノ』が多くの共感を呼んでいる理由のように思う。
この物語は単に転落していく人間を楽しむものではない。今まで何かに依存し続けてきた江美は、今後どのように自分の人生を歩んでいくのか――そんな普遍的なことを本章では問われている気がする。
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